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奥方は、目を伏せる。ティルは幼く、どういうことかよく分かってはいないのだろう。それでも、元気がないように見えた。両手で包むようにコップを持ち、目はふせている。
「でも、奥様は、ご主人を信じておられるのですね?」
「どんなに腕がいい医者でも、治せない病はあるものです。でも、毒殺だけは、そんなことは絶対に、ありえません。しかし、世間の人はそうは思わないでしょう」
ティルの母は一度言葉を切って、紅茶を含む。
「私は主人を信じています。無実である限り、無下には扱われないとも。でも、不安なのです。……主人は無事に帰って来ることが出来るのでしょうか」
彼女はもう疲れてしまっているようだった。夫を信じることに疑いはないのだろう。しかし、周囲の人までは信じきれないのだ。
「奥様、……私たちはティルから依頼を受けました。難しい問題なので、すぐにとは言いません。でも、もしよろしかったら、私たちに任せてもらえませんか」
「あなたたちは、まだリアンよりも幼い、子供ではないですか。こんな危険なことに巻き込むわけにはいきません。……命にかかわるのですよ」
毅然とした態度だった。こんな妻がいるからこそこの医院は、人気が出たのかもしれないと、キリエは思う。
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