11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんね、なんか巻き込んでしまって」
三人はエリナの家で細々としたことを話し合ったあと、宿屋兼食堂の<水鳥亭>まで来ていた。
机の上には、湯気を立てる料理がいくつかあった。双子の手元には果実酒が一杯ずつ。
ゼルセガイアはさすが貿易の街だけあって、様々な種類の果実酒がある。特に北の方で取れる葡萄を特殊な製法で発酵させた果実酒は、格別美味とされていた。しかし、やはりそれだけに値段が高く、三人ともあまり呑んだことはない。
キリエだけは果実水を注文していた。酒はあまり得意ではない。呑んだ途端に赤くなってしまうのだ。
アノはもう既に三杯目の酒に突入していた。ほとんど酒が呑めないキリエにしてみれば、その呑みっぷり羨ましい限りである。
イリーナは財布の中身が軽くなるその行為を歓迎出来なかったが、彼女もまたちびちび酒を呑むのが好きなので、何も言うことは出来なかった。しかし、今日ばかりは臨時収入が先程あったばかりなので、懐もそんなには痛まない。前金をしっかりとエリナから頂いていたのである。
「あの、実はお願いがあるんだ。僕も……、混ぜてくれないかな。あ、足手まといにはならないから……」
夜も近くなった時間帯の食堂には、酔っ払いの姿も増えていた。くだをまく仕事終わりの男たちに、貿易商や旅人たちが溢れていた。小さな声は、しりすぼみに消えて行く。それでも、イリーナには届いていたようだ。
「さっきのエリナさんではないけれど、本当に危険だよ。私たちだけではなくて、エリナさんのご主人、アールノさんの命にも関わる。それは分かってる?」
キリエは頷く。後に引くつもりはなかった。イリーナはキリエの目に宿る強い意思を見る。ここで押し問答をしても無駄だと感じたのだろう、疑問を口にしただけであった。
「そう。なら、いいの。理由だけ教えてもらってもいいかな?」
最初のコメントを投稿しよう!