第一章 ゼルセガイアの精霊 前編

3/40
前へ
/55ページ
次へ
「アノ! 早く水をかけて」    後ろにいた青年は、少女と同じ顔をしていた。身長差のせいかこちらが年上に見えるが、双子かもしれないとキリエは思う。アノは、網に捕われたキリエを覗き込む。   「イリーナ……、これ、本当にそうなのか?」    アノは失礼にもキリエを指差しながら、イリーナに問う。   「だって、黒髪に、黒目なんて珍しいし、間違いないでしょ」    イリーナは自信満々に言い切る。僅かの疑いも持ってはいないようであった。   「でも、あれって喋るのか?」   「喋るんじゃない?」    わけの分からない会話にキリエがついて行けるはずもない。口も挟めず、逃げ場もなく、呆気に取られるだけである。   「逃げる前に、早く捕まえなきゃ! クロモノマネザル!」    イリーナの一言に、キリエは一気に正気に戻る。 「サル!? 僕はサルじゃあ……」    キリエの叫びも間に合わず、どこからか取り出されたバケツの水が少年を襲ったのである。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加