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「わわ、そうだよね。ごめんなさい、旅人さん。私は、イリーナ。それから、双子の弟のアノ。二人で便利屋を営んでいるの」
「そして、今回の依頼は、逃げ出したペットを捕まえて欲しいって」
「それが例のクロモノマネザルだったのよ。とても珍しい動物でね、視界にあるものにそのまま変身できちゃうの。そして、人間に変身したまま、逃げちゃったみたいで……」
さすが双子と言ったところか、リズムよく交互に話す。キリエの視線はあちこちへと動いた。
イリーナがそこで一息着く。キリエと視線を合わせない様子は、罪悪感故だろう。
「そんで、そのサルの特徴ってのが、変身しても体毛とか目は黒いままってことだったんだよ。んで、イリーナが……」
キリエは、短く切った黒髪を指で摘んでみる。黒い瞳もまた少年は持っていた。雑多な人種がいるゼルセガイアでも黒髪黒目の人物には滅多に出会えないのだから、二人の勘違いも無理はない。
「本当にごめんなさい。水をかけると、変身が解けるという話だったの。だから……」
「だから、水を……」
言いづらそうにしている台詞を繋げる。キリエの言葉に、イリーナは大いに慌てた。アノは相変わらずである。
「追いかけてしまったし……。お詫びと言っちゃぁなんだけど、今日の宿は決まってる? 旅人さん。もし決まってなかったら……」
こちらを伺うような態度に、キリエもなんだか萎縮する。迷惑をかけられたのだから、堂々としていてもいいのだけれど、しょせんそういう性格なのだ。
「あ、僕はキリエと言います。でも、そのクロモノマネザルって、まだ捕まっていないんでしょう? それなのに、迷惑をかけてしまうのは……」
「……見つかった、そうだ。さっき使いの人が来たんだよ。屋敷の隅に丸まってたって。全く!」
それを言うならば、キリエもまた追いかけられ損だった、ということである。
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