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「わあ、嬉しい! それじゃあ、買い物に行かなくちゃ。せっかくのお客様なんだもの。ところで、キリエはゼルセガイアのどこかに行く予定だったの? よかったら、案内するよ。この街、迷いやすいし」
よく迷子を探してっていう依頼があるの、とイリーナは締めくくった。
キリエは今アノの服を借りていた。ぶかぶかで、袖が余っている。元々着ていた服も、着替えでさえ、全て濡れていたのである。風呂に入らないかという申し出を、キリエは断った。この暖かさならすぐにでも乾いてしまいそうに思えたし、これ以上世話になりたくはなかったのである。
キリエは迷っていた。確かに目的の場所へは、一人で辿りつけそうにもない。追いかけっこをしていて、それだけは理解出来たのである。一度裏道に入ったら最後、大通りはなかなか姿を見せてくれないのだ。
そのとき、閉めきっていた扉を、思いっきり叩く音がした。何度も何度も続くうるさい音に、アノが顔をしかめる。
「ああ、もう! そんな強く叩かなくても分かってるっつうの! 扉が壊れたらどうしてくれるんだ」
アノがぶつくさ言いながら扉を開けると、そこに立っていたのは、小さな男の子だった。上等な衣服を着て、貯金箱と思われるものを両手で重そうに抱えている。見上げているその瞳には、うっすらと涙がたまっていた。
「お願いがあるんだ! ゼルセガイアの精霊を見つけてくれ!」
男の子は前置きもなく、いきなり叫ぶ。その言葉が中までに聞こえてきて、キリエは疑問に思った。
「はあ? ゼルセガイアの精霊っておとぎばなしじゃねえか」
帰ってくれ、というようにアノが手を振る。男の子は俯いてしまった。肩が震えていて、今にも泣き出してしまいそうである。
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