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「アノ、そんな風に言わないの! ねえねえ僕、僕は何故ゼルセガイアの精霊を探しているの?」
イリーナはアノに注意したあと、少年と同じ目線になるよう、しゃがみ込んだ。そして、優しく少年に話しかける。
その優しげな眼差しに、少年も落ち着いたようだった。目を赤くしたまま、口を開く。腕に更に力を入れて貯金箱を抱きしめる様子は、それが唯一のよりどころであるかのようだ。
「ぼ、僕のお父様が領主様のお屋敷へ連れて行かれたんだ……。だ、だから、僕お父様を助けたくて……。だから、精霊ならきっと助けてくれるって思ったから……」
こらえきれなくなったかのように、少年はぼろぼろと涙をもらした。
「どうぞ、中に入って。詳しくお話を聞かせて欲しいな」
イリーナは男の子と手を繋ぎ、家の中に招き入れた。テーブルに着かせて、今度は台所に入って行く。出てきたときには、冷たいミルクを一つ持っていた。キリエはどこにいればいいか分からず、突っ立っていた。アノが少年の向かいに座ったので、キリエも少し離れたソファに座る。だから、イリーナが戻って来たときには、話を聞く体制がすでに出来ていた。
「私の名前はイリーナ。このお兄ちゃんは、アノね。便利屋をしていることは知っているんだろうけど、ここまで来たなら。ゼルセガイアの精霊を探すことが出来るかは分からないけど、お父様を探す手伝いなら、出来るかもしれないよ。だから、話を聞かせて欲しいの」
穏やかな声に、しゃくり上げながらも少年はしっかりと聞いていた。溜め込んで来た不安を吐き出すように、少年は口を開く。
「僕、ティルです。いきなり僕の家に、領主様の騎士様がやって来て、お父様を連れて行ってしまったの。お父様は、違うって叫んでたのに、何にも聞いてくれなかった……。や、槍とか剣とか、すごく、すごく怖かったんだ……」
穏やかな話ではなさそうだった。イリーナは少年の話に思い当たることがあるというように、口元に手をあてる。
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