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後ろ手で開けていた戸を閉めると
しん、
とした教室に戸の揺れる音が妙に響いた。
先客はこちらを向かない。
(…この人、いつもいる)
なんとなくその場の空気で、なるべく足音をたてないように移動しながら、私はその先客の顔を、横目でちらりと盗み見た.。
その先客……
彼が座っているのは、私の真後ろの席。
ついこの間行った席がえでこの席になったんだけど、
クラス替えをして間もない今、
他の人より極端に人物の顔と名前を覚えるのが苦手な私は、
失礼な話だとは思うけど、真後ろになって初めて彼の存在に気がついた。
彼の名前も
声も
何一つ知らないんだけど
綺麗な黒髪をイヤミなくお洒落に整えて、切れ長の目によく似合う黒縁めがねをかけて…
毎朝私の席の裏で
空や海や
とにかく青でいっぱいの写真集を広げている彼は、
なんとなく私に好印象で、
毎朝の私の大好きなこの時間を共有する仲間として
私はひっそりと
彼のことを認めていた。
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