*5.黄泉への招待状

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*────────────────* 「遅い!」 4階の、1年から2年校舎を繋ぐ渡り廊下。 夕日がすっかり落ちかけている、薄暗いオレンジ色の廊下で、待ちくたびれた杞憂は灰宮を見るなりそう叫んだ。 「ごめんなさい。火急の要件が入ってしまって」 「ふん。いいだろう」 鼻を鳴らして答え、視線を下へ向ける。 この杞憂を差し置く火急の要件が何かは知らないが、今回ばかりは許そう。なぜなら 「俺も、今しがた迷惑に巻き込まれているところだ」 「……そのようね」 灰宮の視線の先、杞憂の足元には一人の教師が倒れていた。 その男性教師は、ただ意識を失っているだけのように見える。 「杞憂、もしかして貴方がやったの?」 「まさか。やる訳ないだろう。俺は品行方正な優等生だぞ」 「────」 「ここに来たら、倒れていたんだ。倒れた際に出来たであろうたんこぶぐらいで、特に異常無さそうだから放っておいている」 人を呼び出した指定場所に倒れているなんて、迷惑極まりない話である。 「場所を指定していたし、急に変えるわけにもいかないからな。そのまま待っていた。この教師は気にするな」 そう言われても灰宮は気になる様子だったが、知らない。 どうせ、後で教師にでも知らせに行くのだろう。 とりあえず杞憂との用事を済ますことにしたらしい灰宮は、リンゴを取り出した。 昼休みに杞憂が投げ落としたリンゴ。そこには、時間と渡り廊下の場所のみマジックで書いてあった。 「リンゴでメッセージを送るなんて、貴方でもお洒落なことするのね。少々、やり方が乱暴だけど」 「それは貶していると取っていいな。仕方ないだろう。本家から大量のリンゴが嫌がらせのように送り付けられたから、食堂に寄付したんだ。おかげで、この世の物とは思えないような美味しいアップルパイが今後食べられるぞ。俺に拝んで有難く食べるんだな」 「アップルパイは頂くわ。それより話が脱線──」 「今言う! その帰りに余ったリンゴを持って歩いていただけだ。メッセージには丁度いいだろう」 御厨に渡す気はなかったが、どこがぶつければいいのにと投げつけたら、綺麗にキャッチされた。 ※寅吉には当たりました。 (本当に苛つくヤツだ) 「でも不確定要素が強いわよ。校舎裏で魔獣が出たばかりだもの。警戒しすぎて、握りつぶしてしまうところだったわ」 「握りつぶ……まぁいい。そう思うということは、あれがただの事故とは考えていないようだな」 「根拠が、あるわけじゃないのよ」 「十分だ。俺も何か引っかかって、校舎裏が見える場所を選んで通ったんだからな」 まぁそれで見つけたのは、あの不気味な兎もどきとトラブルの塊みたいなヤツだったが。
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