―序―

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重く、灰色のカーテン。 まるで曇り空のような重いカーテンを、切るように鋭い動作で開け放った。 その瞬間、まばゆい程の月光が降り注ぐ。 星も見えない真っ暗な空に浮かぶ月は丸い──満月。 「行くのか?」 ふいに部屋に響いた、凛とした少女の声に窓辺でカーテンを開けた少年はチラリと声のした方向に視線を投げかけた。 灯りもつけていない真夜中の部屋は、窓から注ぐ月明かりのおかげで、何とか薄暗い程度にとどまっている。 しかしそれも窓際だけで、声を発した少女はわざとなのか──おそらくわざとだろうが──窓から一番離れた光の届かない場所に立っているせいで、姿は見えない。 少年は黙って視線を外へ戻すと、スッと目を細めて窓を開け放った。
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