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「俺は、当主争奪戦からは降りたんだ」
「いや、お前はまだ降りていない」
速攻で否定されたんだけど。
「確かに、お前は3年前、本邸の屋敷を半壊させ姿を消した。ある魔術書を盗んでいったという話もある」
「半壊は言い過ぎだろ。ちょっと塔を壊しただけじゃねぇか」
「それを半壊で終わらせるだけマシだと思え。天城の者は、その行為を謀反と見なしている。いくら、お前が降りるつもりでも、その本人がいないのではどうにもならない。何が何でも天城涼都を探し出す。そうして断罪する、闇に葬ってしまう、色々な思惑を抱き、その次期当主の座を剥奪しようとしている」
確かに、それで涼都は今まで身を隠して生活してきたのだ。
「ただ、私から言わせれば、それは逃げだ」
涼都はそれに応えずに、制服のシャツに復元魔術をかけ直した。
里見のやつ…………さすがに、痛いところを突いてくるな。
(俺だって、まさにその通りだと分かっているよ)
「後見人は、お前を当主にすることを諦めていない。次期当主の座は未だお前の手の内だ。そうである限り、また誰かが殺しにやってくるだろう。お前が逃げ続ける限り、続くぞ」
「──むしろ、それを待っていると言ったら?」
里見が信じられないものでも見るかのような目を涼都に向けた。
そして、意外そうに言う。
「お前は梵天丸を探しに、この学園に来たと思っていたんだが、そうじゃないのか」
「『梵天丸』だと?!」
天城家当主になるには、二つ条件を満たさなければならない。
一つ目は、天城家直系の血が濃いこと。
二つ目は、宝刀『梵天丸』に選ばれた人間であること。
しかし、その梵天丸は何代か前に当主になる予定であった天城獅王が、天城家を出奔する際に持っていってしまい、獅王同様、行方知れずとなっている。
それ以降、天城家の当主は指名制となったのだが。
「梵天丸が、この学園にあるのか」
「あるかどうかは知らないが、持ち主であった天城獅王は桜華学園の高等部に在学していた。17歳で出奔するまで、この学園にいたんだ。可能性はある──知らなかったのか」
「いちいち、親戚の出身校なんて知るかよ」
しかし、それならば先程の天城獅王のメモにも納得がいく。
(それにしても、『梵天丸』か。予想外に厄介なのが出てきたな──お、シャツの血が綺麗に取れたな)
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