*5.黄泉への招待状

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「まぁ梵天丸の件は置いておくとして、今のところ俺のやることは決まってる──現状維持だ」 それを里見は鼻で笑った。 「近い未来、どうにも逃げられずに、表舞台へ引っ張り出される時が来るだろう。その時、お前がどうするのか見物(みもの)だな」 勝手に見物にされても困るんだが。 しかし涼都はそれを笑い飛ばした。 「俺は喧嘩を売られたら、倍にして返すタイプなんでな──見物なのは天城家(アイツら)だ」 「それは──」 里見が言いかけた言葉は、急に開いた保健室の扉の音にかき消された。 「まだここにいたか。間に合って良かった」 「京極」 言いながら入ってきたのは京極だった。相変わらずの無表情で、京極は涼都を見つめる。 「御厨、先生を呼び捨てにするのは良くないな」 「京極センセイ、どうしてここに?」 「敬語」 「京極先生が、どうしてここにいらっしゃったのデスカ?」 取ってつけたような敬語で納得したのか、京極は頷くと里見へと視線を向けた。 「先ほど、資料室を通りかかったのですが、荻村先生と鳴海先生が呼んでいましたよ」 「何故、私を」 すごい綺麗にスルーされたんだけど。 ここまでサラリと流されると、悲しいを通り越して困惑すら覚える。 「何の用事で?」 「確か、資料のファイルが見つからないとか」 荻村と鳴海といえば、東もろとも資料室に置いてきたメンバーだ。 (そういや、速水と暖を取れそうな物を探してた時に、結構散らかしちゃったな) もしかしなくとも、片付けさせてしまっているのだろうか。 それで片付けていたら、資料がないってか。 (ヤバくね? それ、なくしたの俺達じゃん) 里見が眉間にしわを寄せて、鋭い眼光を京極へ向けた。 完全に京極は関係ないのだが、彼は相変わらずの無表情で流している。 「………………」 無言で京極を睨みつけた後、里見は嘆息して保健室の扉へ向かった。 資料室へ戻るのだろう。 その手が扉にかかる頃、里見の背に涼都は声をかけた。 「俺に先に喧嘩売ってきたのはアイツらだからな」 アイツら、すなわち天城家。 一瞬、それに里見は足を止める。しかし、彼は振り返ることなく保健室を出ていった。 残された涼都は、京極へと視線を向ける。 さて、ここで問題です。ところで、京極は俺に何の用があるのでしょうか? 答え 「俺は御厨を呼び出していたはずだが、いつまで経っても来ないから探しにきた」 「あ」 そういえば、そうだった。 京極の呼び出しを無視して、里見の呼び出しに行っていたんだった。 というわけで、涼都は今度は京極についていくハメになる。 全く、俺様は人気者だな。
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