32830人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁ梵天丸の件は置いておくとして、今のところ俺のやることは決まってる──現状維持だ」
それを里見は鼻で笑った。
「近い未来、どうにも逃げられずに、表舞台へ引っ張り出される時が来るだろう。その時、お前がどうするのか見物だな」
勝手に見物にされても困るんだが。
しかし涼都はそれを笑い飛ばした。
「俺は喧嘩を売られたら、倍にして返すタイプなんでな──見物なのは天城家だ」
「それは──」
里見が言いかけた言葉は、急に開いた保健室の扉の音にかき消された。
「まだここにいたか。間に合って良かった」
「京極」
言いながら入ってきたのは京極だった。相変わらずの無表情で、京極は涼都を見つめる。
「御厨、先生を呼び捨てにするのは良くないな」
「京極センセイ、どうしてここに?」
「敬語」
「京極先生が、どうしてここにいらっしゃったのデスカ?」
取ってつけたような敬語で納得したのか、京極は頷くと里見へと視線を向けた。
「先ほど、資料室を通りかかったのですが、荻村先生と鳴海先生が呼んでいましたよ」
「何故、私を」
すごい綺麗にスルーされたんだけど。
ここまでサラリと流されると、悲しいを通り越して困惑すら覚える。
「何の用事で?」
「確か、資料のファイルが見つからないとか」
荻村と鳴海といえば、東もろとも資料室に置いてきたメンバーだ。
(そういや、速水と暖を取れそうな物を探してた時に、結構散らかしちゃったな)
もしかしなくとも、片付けさせてしまっているのだろうか。
それで片付けていたら、資料がないってか。
(ヤバくね? それ、なくしたの俺達じゃん)
里見が眉間にしわを寄せて、鋭い眼光を京極へ向けた。
完全に京極は関係ないのだが、彼は相変わらずの無表情で流している。
「………………」
無言で京極を睨みつけた後、里見は嘆息して保健室の扉へ向かった。
資料室へ戻るのだろう。
その手が扉にかかる頃、里見の背に涼都は声をかけた。
「俺に先に喧嘩売ってきたのはアイツらだからな」
アイツら、すなわち天城家。
一瞬、それに里見は足を止める。しかし、彼は振り返ることなく保健室を出ていった。
残された涼都は、京極へと視線を向ける。
さて、ここで問題です。ところで、京極は俺に何の用があるのでしょうか?
答え
「俺は御厨を呼び出していたはずだが、いつまで経っても来ないから探しにきた」
「あ」
そういえば、そうだった。
京極の呼び出しを無視して、里見の呼び出しに行っていたんだった。
というわけで、涼都は今度は京極についていくハメになる。
全く、俺様は人気者だな。
最初のコメントを投稿しよう!