*5.黄泉への招待状

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*─────────────────* 『手伝いたいのは山々なのですが……私、用事がありまして』 心底申し訳なさそうに京極共に去っていった灰宮を見送った後、片付いた資料室で東は保健室に思いを馳せていた。 (涼都、大丈夫かな) もちろん安否の心配でなはなく、里見と揉め事を起こしていないかという点においてだ。 二人で一体何を話しているのか気にはなるが、里見のことだ。 まともな話になりそうにない。 (両者、無事だといいんだけど) そう、東が嘆息した時だ。 資料室の扉が開いたかと思うと、不機嫌そうな里見が入ってきた。 「何の資料が無いんだ」 そこに涼都がいないということは、無事に京極に引き取られたのだろう。 しっかり事情も伝わっているようで、それなら話は早いと荻村は里見に答えた。 「No.52のファイルだ」 「52だと?」 里見の片眉が跳ね上がった。 直ぐに何の資料なのか検討がついたのか、渋い顔をしている。 「何の資料なんですか?」 「桜華の歴史について書かれた資料だ」 何とも簡単な説明だったが、たいして興味の無さそうな鳴海は『そうですか』で終わらせた。 荻村もそれは同じようで、一応といった様子で尋ねる。 「誰かが特別借りていった、というわけでもないんだな?」 「そういう話は一切聞いていない」 なるほど。これが紛失というやつか。 「とりあえず、上に報告して探すしかないかー」 「そうだな……面倒くさいから報告は鳴海か里見がやっておけ」 面倒そうに伸びをした鳴海に主張だけすると、荻村は新しいタバコに火をつける。 それに『仕方ないな』と答えたのは里見で、資料室の扉に手をかけ振り向きもせずに言う。 「報告は私がしておこう」 相当ご機嫌斜めな様子で出ていった里見に、鳴海はハッとしたように手を打つ。 「そういや俺、花壇を直さないといけないんだった。途中で放り投げてきちまったぜ」 慌てた様子で鳴海は駆け出し、振り返る。
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