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『手伝いたいのは山々なのですが……私、用事がありまして』
心底申し訳なさそうに京極共に去っていった灰宮を見送った後、片付いた資料室で東は保健室に思いを馳せていた。
(涼都、大丈夫かな)
もちろん安否の心配でなはなく、里見と揉め事を起こしていないかという点においてだ。
二人で一体何を話しているのか気にはなるが、里見のことだ。
まともな話になりそうにない。
(両者、無事だといいんだけど)
そう、東が嘆息した時だ。
資料室の扉が開いたかと思うと、不機嫌そうな里見が入ってきた。
「何の資料が無いんだ」
そこに涼都がいないということは、無事に京極に引き取られたのだろう。
しっかり事情も伝わっているようで、それなら話は早いと荻村は里見に答えた。
「No.52のファイルだ」
「52だと?」
里見の片眉が跳ね上がった。
直ぐに何の資料なのか検討がついたのか、渋い顔をしている。
「何の資料なんですか?」
「桜華の歴史について書かれた資料だ」
何とも簡単な説明だったが、たいして興味の無さそうな鳴海は『そうですか』で終わらせた。
荻村もそれは同じようで、一応といった様子で尋ねる。
「誰かが特別借りていった、というわけでもないんだな?」
「そういう話は一切聞いていない」
なるほど。これが紛失というやつか。
「とりあえず、上に報告して探すしかないかー」
「そうだな……面倒くさいから報告は鳴海か里見がやっておけ」
面倒そうに伸びをした鳴海に主張だけすると、荻村は新しいタバコに火をつける。
それに『仕方ないな』と答えたのは里見で、資料室の扉に手をかけ振り向きもせずに言う。
「報告は私がしておこう」
相当ご機嫌斜めな様子で出ていった里見に、鳴海はハッとしたように手を打つ。
「そういや俺、花壇を直さないといけないんだった。途中で放り投げてきちまったぜ」
慌てた様子で鳴海は駆け出し、振り返る。
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