*5.黄泉への招待状

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「じゃ俺は戻るけど、設楽も早く帰るんだぞ。荻村も、吸殻はしっかり捨てておけよ」 「うるせぇな。母親かよ。わかったからサッサと戻れよ」 タバコの煙を吐き出し、猫でも追いやるようにしっしと手を払う荻村に、鳴海は笑顔で駆けて行った。 (爽やかだなぁ) 半ば感心して見送っていると、荻村がポケットから携帯を取り出す。 「電話だ……面倒くせぇな」 「あ、じゃあ俺は帰りますね」 人がいては電話しづらいかと、東は言いながら資料室を後にする。 「涼都を迎えに保健室まで行こうかな」 しかし、涼都は京極に説教(かもしれない)をされているはずである。 保健室に留まっているかも怪しいところだ。 ここはひとまず、教室に戻ってしばらく涼都を待ってみよう。 そう、東が方針を決めた時だ。 「あれ、携帯がない」 ポケットに入れたはずの携帯の感触はなく、思わず振り返る。 資料室に落としてきてしまったかもしれない。 「────」 探しに戻ろう。 中では荻村が電話中であるため少し躊躇ったが、携帯がないのではかなり困ったことになる。 荻村に遠慮して、東は資料室の扉ではなく隣の教室へ足を踏み入れた。 この教室から資料室へ抜けると、後ろ側に出るのだ。こっそり戻って、静かに探していれば荻村の邪魔はしないだろう。 資料室に繋がる扉を開けると、棚が立ち塞がっていた。そもそも人の出入りを考えて配置されていないのだ。 棚の隙間を縫うように入った東は意外にも、すぐに床に落ちた携帯を見つけることが出来た。 (よかった。すぐに気がついて) 「学校にいる時は電話するなと言ったはずだ」 そっけない言葉が聞こえてきて、東が反射的に棚から顔を出すと、荻村がタバコ片手に面倒そうに会話していた。 (彼女の類では、なさそうだね) 「あぁ、それはもうバレた。無理だ……仕方ないだろ。そういう流れだったんだ」 何の話だろう。 思わず、身を乗り出した東に気づくことなく、荻村は会話を続ける。 「あぁ、まぁ順調なんじゃねぇの」 言うだけ言って、荻村は通話を切ってしまった。多分相手の返事も聞かずに。 同時に頭を引っ込めた東は、考えるように目を細める。 その目は、いつになく鋭かった。
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