*5.黄泉への招待状

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*─────────────────* 「で? 京極先生は何の用事でいらっしゃったんですか」 場所を1階の階段裏に移した涼都は開口一番に尋ねた。 仕方なくの棒読みの敬語に、京極は気にすることなく答える。 「御厨、今日の授業中寝ていただろう」 「はぁ、まぁ」 やはりそうかと、面倒そうに涼都は頭をかいた。 説教ならサッサと喋らせてサクサクと部屋に帰るに限る。 「今日みたいに寝ていると、次からは成績下げるからな。気をつけるように」 淡々と告げた後に、京極は真っ直ぐに涼都を見て続けた。 「──というのが、建前だ」 涼都はそれに無言で頷く。やはり、ただ注意や説教をするためだけに、わざわざ涼都を探してまで見つけ出したわけではないようだ。 京極が指を鳴らすと、周囲がシャボン玉のような薄い膜に覆われた。 防音壁。普通は会議などの大切な情報を漏らしてはいけない時に張る結界だ。 そんなものを使うということは…… 「よほど重要な話なんだな」 ニヤリと笑う涼都に京極はあぁと頷き、無表情のまま続ける。 「敬語──は、今はいいとするか。とにかく、これはくれぐれも内密にしておいて欲しいんだが──最近、高等部の教師が怪我をする事件が多い。いや、昏倒と言った方がいいか」 「教師が?」 あー何か嫌な予感してきた。 涼都は思わず顔をしかめた。 ここは魔術学園なのだから、魔術を特に扱い教える教師が怪我や昏倒することも、おかしくはない。 しかし、京極は事故ではなく事件と言った。ということは 「誰かが、この学園の教師に危害を加えてるってことか」 「危害……とまで言っていいのかは分からないが。ここ最近、放課後になると倒れている教師が見つかるんだ。そして、それは今も続いている。全員ともに、倒れた時の記憶はない」 「確かに、ただ偶然続いてるってわけでは無さそうだな」 「気がついたら倒れていた、というのが大半だが、後ろから殴られて気絶させられた、という教師もいる。昏倒させられた際に怪我をしている教師も少なくない。これが、どういうことか分かるか?」 「……穏やかじゃないな、それは」 確かに、教師達を昏倒させている誰かがいるのだろう。そして、ターゲットを教師に絞っている。 「いくら学園内とはいえ、相手は教師だ。油断していたにしても、そう簡単に昏倒させられるものじゃねぇ。相手は只者じゃないってことだ」 「さすが、ブラックカードを持つ特待生なだけはあるな。頭の回転はいいようだ」 「何? 今のって完全に、頭の回転悪いと思ってた口調じゃね」 「──で、その教師達を調べたところだな」 完全に無視しやがった。無いものとされたんだけど。 (もう帰ろっかなー) 「昏倒させられた、いや、襲われたといっていいだろう。襲われた教師は皆、共通点があった」 「共通点?」 半分やる気を無くした涼都は、一応話に乗った。 「そうだ。全員がゴールドカードのランクの教師。つまり、魔術師として優れた人間だということだ」 魔術教師というのは、実はかなり優秀でないとなれない職業で、カードの色はブロンズ、シルバー、ゴールドの上位三色だけだ。 その中でもゴールドは古代魔術を使えるブラックを除き、現代魔術としては最高位の色。 そんなレベルの高い教師を、わざわざ狙うなんて。 「何かあるのか?」 「目的は今のところ分からない。特に盗られた物もないようだからな。強盗目的ではないだろう」
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