32830人が本棚に入れています
本棚に追加
涼都は黙って目を細めた。
以前、涼都を襲撃してきた偽生徒2人組の事が頭に浮かんだが、言うべきかどうか迷った。
しかし、涼都は次の瞬間には口を開いていた。
「この学園に、侵入者がいるぜ」
「……なんだと」
「池波と鳥羽って名乗ったらしいが、俺は忘却の魔術をかけられて忘れてる。男女2人組だ。やつらは生徒に成りすまして学園に潜入してるみたいだ」
「何故、それを早く言わなかった」
「あいつらの思い通りになりたくなかったからだよ」
「思い通り……?」
そう。それが、涼都が教師に決して彼らのことを話さなかった理由。
「生徒に成りすまして潜入、なんて長くは続かないだろ。新入生が来た今の時期だから成り立つ話だ。そのうちにバレる。そうなりゃ、教師達はやつらを探すだろう」
「そうだろうな」
「そして、気づく。やつらを引き入れた人間が学園側にいることに」
「……そういうことか」
結界のある広大な学園に、単独で侵入出来るはずがない。侵入者を手引きした人間が、学園側にいるであろうことに気づいてしまえば、彼らは身内を疑わざるを得ない。
「そうなってしまえば、教師達は疑心暗鬼だ」
「学園の人間を疑心暗鬼にさせてしまうことが、そもそもの狙いというわけか」
「思うに、池波と鳥羽はバレることを恐れていないように見える。やつらは陽動部隊で、出来るだけ派手にその存在を主張して教師を引っ掻き回す役割なんじゃないかと思う」
「なるほど。そして、教師達がその存在に気をとられている内に、素早く裏方に回って自分を引き入れた他の仲間と合流、補佐する方へ回るわけか──上手く出来ているな」
「そう。だから、俺は教師にはやつらのことを話してない。侵入者がいること自体知られなければ、そもそもやつらの狙いは外れるしな」
まぁ、涼都が言わなくとも鳥羽や池波の存在が知れるのは時間の問題だとは思うが。
「俺は、あいつらの思惑通りに動きたくないだけだ」
「なら、何故教師の私に打ち明けてくれたんだ? 私がそいつらを引き入れた仲間かもしれないだろう?」
不思議そうに尋ねる京極に、涼都はにっと笑んだ。
「あいつらの存在を知っておく教師がいてもいいかと思ってな。あんたは情報に踊らされるようなタイプには見えねぇし、あいつらの仲間にも見えねぇ。ま、勘だな、勘」
京極なら、この情報を正しく扱ってくれると思ったからだ。
そして、もし京極がやつらの侵入を手引きした内通者なら、今後やつらにいいような情報が教師陣へ流れることだろう。それならそれで、京極がやつらの仲間だと分かるので別にいいのである。
(まぁ絵踏みたいなもんだな。この情報をどう扱うかで、やつらの仲間かどうか分かる)
まぁ、一瞬きょとんとしたような表情を浮かべた京極を見るに、そんな心配は無用だろうが。
瞬時に、いつもの無表情に戻った京極が思案げにつぶやく。
「それならば、教師襲撃事件にもその侵入者が関係しているかもしれないな……まぁ、それはこちらで調べてみよう」
「しっかし……腕試しじゃあるまいし、わざわざ熟練の魔術教師を襲う意図が分からないな」
「今のところ狙われているのは教師だが、魔術のレベルが高い人間を狙っているのかもしれない」
もし、そうなら
「ゴールドカードを持つ設楽もそうだが、特に御厨。ブラックカードを持つお前は、気をつけた方がいい」
なるほど。
なぜ京極がそのような極秘事項を教えてくれるのかと思ったが、涼都に危機感を持たせるために話してくれたのか。
確かに、涼都に被害があるかもしれない以上、注意しておくに越したことはないからな。でも──
涼都は鼻で笑った。
「俺は、そう簡単にやられるような人間じゃねぇよ。なめてもらっちゃ困るぜ、センセイ」
最初のコメントを投稿しよう!