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そういえば、と杞憂は自然な流れで尋ねた。
まるで世間話でもするように、本題に入る。
「それで、灰宮のお嬢さんは、一体何が目的でこの学園に来たんだ?」
灰宮の表情が固まった。
「な、んの……こと?」
「とぼけるな。桃園女学院の進学が決まっていたはずだ。それが、何故この桜華にいる? 入学直前でバタバタと慌ただしく学校を変更したらしいじゃないか。何かあったんだろう」
桃園女学院といえば、名家の令嬢が集うエリート校だ。桜華に負けず劣らずの名門校である。
灰宮家の令嬢が桃園女学院に行くという話は、かねてから薄くない関わりがある四大一門なら知っていたことだ。
しかし、それが何故か桜華の入試ギリギリになって桃園女学院の合格を蹴ったのである。
何か、灰宮家であったのは明白だ。
黙り込む灰宮に、杞憂は切り込んだ。
「入学式の数ヶ月前、灰宮の刺客が全滅したらしいじゃないか。誰がターゲットだ」
「ターゲット、なんて物騒な響きね。私は誰かを傷つけに来たわけじゃないわ」
「なら何しに来た。ハッキリ言って、杞憂家も桜華に用があるんだ。その邪魔になるようなことがあるなら──容赦は出来ないぞ」
「心配には及ばないわ。杞憂家には迷惑をかけない。そして──」
灰宮は顔を上げると、真っ直ぐに杞憂の目を見て告げた。
「これ以上、私が貴方に答える義務は、無いわ」
その目の強さに、杞憂は内心でため息をつく。
(これ以上の探りは無理そうだな。たいしたことは聞きだせなかったか)
「まぁ杞憂家に迷惑がかからなければ、どうでもいいがな。お嬢さんはせいぜい御厨とでもお友達ごっこしていればいいさ」
「ごっこって……私は、そんなつもりは」
表情を曇らせた灰宮が言葉を詰まらせ、視線をさ迷わせる。それを杞憂は追求しなかった。
心底、興味ない。
(御厨に関わっても、どうせ後で傷つくのは、お嬢さんの方だろうに)
「お友達ごっこじゃないなら、何故言ってやらないんだ?」
「え? 何を──」
「御厨の死相、出ているだろう。入学式の日から、ずっと。設楽家はそういうのに疎いから人の相は読めないだろうが、灰宮家は違う。その灰宮の令嬢がわざわざ構うのは、いずれ死ぬという憐憫からだと思っていたが」
「っそ、れは……違うわ。そんな理由じゃ」
「でも、本人には言っていない」
灰宮はただ視線を逸らし、夕日が沈む窓の向こうを静かに見つめる。
「あの死相は、近い未来のものではないわ。今もまだ死相は消えていないでしょう。けれど──それを本人に知らせたところで、運命は変えられないわ」
運命、ね。
「実に、灰宮家らしい御言葉だ」
諦観の混ざったその言葉に、内心で杞憂は吐き捨てた。
『運命なんて、くだらない』
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