*5.黄泉への招待状

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*─────────────────* 「おい、京極」 階段裏から廊下へ出た涼都と京極は、通りかかった教師に呼び止められた。 もちろん、涼都は呼び止められたわけではないが、思わず一緒に振り返ってしまう。 それは濃い茶髪の、どこか道端でブレイクダンスでも踊っていそうな青年だった。 ※あくまで個人の感想です。 「春日(かすが)」 (わぁガラ悪。つーか、待てよ。この教師) 魔獣騒ぎがあった次の休み。こっそり現場に侵入した涼都と鉢合わせした教師じゃなかろうか。 『口紅、付いてますよ』 前はあれで逃げられたが、今回はそうもいくまい。というか、前の不法侵入の件はもう忘れていて欲しい。切実に。 (つか、あの教師、春日ってゆーのか。覚えておこう。今後のために) 何となく気まずい涼都だったが、春日はそれどころではないようで、血相を変えていた。 「渡り廊下で、また倒れた教師が見つかった」 「何だと」 そのまま現場に向かう春日と京極に、涼都も自然とついて行こうとする──が。 「ぎゃふ」 「お子様はさっさと帰れ。ガキが来るところじゃない」 ガラの悪い教師──もとい春日に頭を押さえつけられ、強制的に前へ進めなくなった。 その手を振り払いかけた時だ。 「涼都! こんな所にいたんだ」 「げ、東」 たまたま会ってしまった東は涼都を探していたようで、会うなり京極が東へ言った。 「さぁ、お友達も来たことだし、君達はすぐに帰りなさい」 「えーそんな面白そ……大変な現場。俺がいたら役に立つって、絶対。つか、東は友達じゃないし」 「また、そんなこと言って……先生、涼都は恥ずかしがり屋なんですよ」 「生徒の危険と引き換えに得るものなどない。帰るんだ、分かったな」 「あれ? 京極先生無視ですか。それとも聞こえてないんですか?」 東は放置するとして、京極にそう言われては涼都も引き下がるしかなかった。 (一度、現場を見てみたいっつーのはあったんだが、仕方ないな) 「はーい」 今回はおとなしく帰るか。 その涼都の判断に、東もほっとしたようで教室から持ってきたであろう涼都のカバンを手渡す。 (俺に会えなかったら、カバンどうするつもりだったんだろう) まぁ東なら涼都を見つけてしまえそうで怖いが。いや、まさか 「………………」 思わず発信機を探してしまう涼都である。 「君は怪我人なんだから。しばらく安静にしてないとダメだよ。だいたい、君はいつも一人で突っ走っちゃって……涼都、聞いてる?」 「あぁ、聞いてる聞いてる」 よし、発信機は無さそうだな。ということは、コイツ単独で俺を見つけ出したのかよ、それはそれで怖ぇな。 「絶対聞いてない時の返事だよね、それ」 「とりあえず、お前ら早く帰れ。じゃないと俺らも現場行けねぇからよ」 「? 現場って? 何の現場ですか。まさか先生何か、やらかしてしまったのですか」 「何もやらかしてねぇよ! どうでもいいから、早く帰れって!!」 日常の、いつもの東にいつもの光景。 たまに事件は起きるが、それもここでは日常の範囲内。 だからだろうか。 この時は、まだ気づいていなかった。 忍び寄る、過去の因果に。 ──そうして、運命の錆び付いた歯車は、ゆっくりと回り始めていた。
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