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僕の名はケイスケ。
僕は電車内、君の隣に座っている。
この車両の席は、二席ずつくっついていて、進行方向に座面が向いている。特急電車の様な席の配置だ。(これで伝わるだろうか……?)
受験勉強で忙しい時期だから、君の手には参考書。四月を過ぎたら君は高校生。
君の名は、ユウ。
「えっと、enoughの意味は……なんだっけ?」
『十分に だよ』
「そっか。 十分に だね。」
参考書と電子辞書を見比べながら君は言う。
「よし、これも正解。流石あたしだね」
『あぁ、ほんとに。流石だよ』
皮肉混じりに僕は言う。
可愛い君に、笑顔を投げ掛けたいのだけれど、いつも無愛想にしてしまう。
これが、恋というヤツなのだろう。
「あぁ、もう着いちゃうよ。もう一問したかったのに」
君は少し口を尖らせる。
ふて腐れた面持ちも、やはり僕には可愛らしく映る。
『さ、降りるぞ』
「はぁー。疲れた」
何故だろう。
君の声は、かなり耳を澄まさないと聞こえない程に小さいのだった。
電車を降りて、学校に向かう君と僕。
「ユウ! おはよ! 相変わらず眠そうだね」
君に話し掛けたのは、同級生のマリ。
「うん、昨日も寝たの夜中の三時だもん」
君の声。マリと話す声は、普通の声量だ。
不思議に感じながらも、二人の会話に、小さな相槌を打ちながら、三人で連れだって校舎へと歩を進める。
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