歪み

2/4
前へ
/13ページ
次へ
僕の名はケイスケ。 僕は電車内、君の隣に座っている。 この車両の席は、二席ずつくっついていて、進行方向に座面が向いている。特急電車の様な席の配置だ。(これで伝わるだろうか……?)   受験勉強で忙しい時期だから、君の手には参考書。四月を過ぎたら君は高校生。 君の名は、ユウ。   「えっと、enoughの意味は……なんだっけ?」   『十分に だよ』   「そっか。 十分に だね。」   参考書と電子辞書を見比べながら君は言う。   「よし、これも正解。流石あたしだね」   『あぁ、ほんとに。流石だよ』   皮肉混じりに僕は言う。 可愛い君に、笑顔を投げ掛けたいのだけれど、いつも無愛想にしてしまう。 これが、恋というヤツなのだろう。   「あぁ、もう着いちゃうよ。もう一問したかったのに」   君は少し口を尖らせる。 ふて腐れた面持ちも、やはり僕には可愛らしく映る。   『さ、降りるぞ』   「はぁー。疲れた」   何故だろう。 君の声は、かなり耳を澄まさないと聞こえない程に小さいのだった。   電車を降りて、学校に向かう君と僕。   「ユウ! おはよ! 相変わらず眠そうだね」   君に話し掛けたのは、同級生のマリ。  「うん、昨日も寝たの夜中の三時だもん」   君の声。マリと話す声は、普通の声量だ。 不思議に感じながらも、二人の会話に、小さな相槌を打ちながら、三人で連れだって校舎へと歩を進める。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加