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「夕暮れになると白い大地が朱と闇色に染まって…綺麗で、好きだった」
「うん」
「昼間は暑く乾燥していて、夜はめっきり冷え込むが」
「うん」
「それでも…」
「……」
──吁、この方は"人"だ。
郷里への哀愁。
失くした家族と、心と、今は遠い記憶のような何処までも続く青い空。
結局は最後の肉親の岱以外、何もかも失った。
ぽつぽつと雨が二人を濡らす。
雨の臭いに混じる土の匂い、今はもうそれくらいしか故郷を思い出させるものが無かった。
此処は、あの地に近い筈なのに──とても遠い。
「どうか、泣かないでください」
「…泣いてなんかいない」
雨と同化して見えただけだったのかもしれないが。
瞳が、泣いているような色をしていたから。
「俺は、再びあの空を見る事が出来るだろうか…?」
どう答えたら良いのか分からず、趙雲は唯ひたすらに隣に居るしか出来なかった。
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