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奉行の者達にその巨馬が現れた所まで行くと、それまで乗ってきた馬を帰してしまった。広い山峡の地に一人ぼっちになってしまった。
慶次は武器という武器を持たなかった。
『これでは捕まえる事も殺すことも出来まい。』奉行の者はこう思ったに違いない。
何も持たなかったのには訳がある。
馬が鉄の臭いで警戒されて近寄らない事を恐れて敢えて持ってこなかった。ただ持ってきたのは何食分かの握り飯と、馬鹿でかい瓢(ふくべ)【瓢とはひょうたんの果実の中身を水に浸け腐食させ、毎日中を洗い流し水を変えると言うことを皮の厚さが一㎝位になるまで何日間か繰り返した後天日で乾燥させたもの】に酒を入れた物だけだった。そして一日が過ぎ日が暮れた。慶次はキラキラと光り輝く満天の星空を仰向けで見ながら酔っ払って寝てしまった。
明け方、誰かにわき腹をつつかれて目が覚めた。「うるさいなぁ!放っといてくれ!」
手でそれを払いのけ寝返りを打ってまた眠りに就こうとした。
今度は背中を『ドスッ!!』と叩かれた。今度はかなり痛い。
「しつこいね!?お前も!! 」いい加減腹のたった慶次は仰向けになり目を開と驚いた。
そこには今まで見たことも無いような大きな馬が上から見下ろして立っていた。
叩かれたのはその前脚だった。
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