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意識がはっきりしない中最初に目に飛び込んできたのは真っ白い壁。
それが天井だと気付くのに少々時間を要した。
体が心地よいほど温かいのは今僕がベッドの中で横たわっているからということにもこのときに気付いた。
ぼんやりとした意識を何とか集中して少しあたりを見回してみると僕の横で茶色い髪の女性が椅子に座って俯き眠っている。
体の感覚が少々曖昧だが僕はゆっくりと上半身を起こして、その女性をもう一度見た。
そして記憶が高速に浮かび上がるのを感じた。
「ジェシカ…」
自然と僕の口はその女性の名前を口走った。そしてその言葉に彼女ははっと目を覚ました。
「エディ、目が覚めたのね! ああエディ…」
認識するまでもなく彼女は今起こっている現実をひどく噛みしめたいという感じで僕に強く抱きつきそして僕も涙が出るほど歓喜する彼女を確かに愛していた。
僕も少し遅れながらも彼女を腕に包み込み抱き返した。
体を離し目に溜まった涙を拭いて彼女はようやっと落ち着いた。
「あなたが倒れてるのを見つけたときはもう頭が真っ白になったわ。あなたいっつも死にたいって言ってたから。ほんとに死んじゃったって思って…」
たしかに僕にとっての生きがいと言うよりも死を求めるぎりぎりで踏みとどまらせたのは彼女の存在だった。
ただそれだけではやっぱり足らなかったのかもしれない。
「あなたは心臓に重い負担を抱えていて助かるには移植手術しかないって。でもあなたに適応した提供者がなかなかいなくて、だけどそんなときに奇跡的に見つかって、それで…」
彼女はその瞬間のことを思い出したのかまた目に涙を浮かべて口を覆い嗚咽を抑えた。
「手術が成功して医者は拒絶反応もないって。でもいつ起きるかは分からなくて、本人次第では起きないこともあるんだって言われて…」
たとえばその医者が言ったことはあの世界の中にいたような、現実と夢のはざ間であり生と死のはざ間でもあることなのかもしれない。
そしてそれが意味するのは生きることへの苦しみ。希望を失った人生。
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