『絶望』

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それに気付いた途端、静かな不安が体の内側に広がった。 そして突然、さっきの声にすがりたくなった。 「君は誰なんだ?」 自分の耳に聞こえた僕自身の声すらも初めて聞いたような感覚。 忘却ではなく虚無。 「私よりもあなたが誰かと言うこと」 それは分かっている。だけどどうやっても『思い出せない』いや違う。 『起こせない』このほうが正しいような気がする。 「僕が誰なのか、君は知っているんじゃないのか?」 根拠なんかないが、そんな気がした。また頼ることのできる相手もこの声の持ち主ただ一人なのだからそうであってもらわないともはや僕にはどうしようもない。 「知らないわ。でも知ることはできる」 何も分からない僕に、何も教えてくれないのか。 そう感じると内に広がった不安が袋を破ったように表に飛び出し、僕の体、周り全体を取り巻き光のないこの世界に、いっそうの闇が訪れた。 「何を恐れているの?あなたが誰なのかなんて、あなたが知らなきゃ誰にも分からないわ。あなたは、あなたを諦めたの?」 諦めた?なにかその言葉は僕の内側を小さく小突いた。 そうだ、僕は諦めてしまったんだ。僕自身を諦めてしまったんだ!
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