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しかし奇妙な事に、この童子は未だに言葉を口にする様子が無く、表情にも乏しく、親神の凶太にでさえ、笑った顔など一度も見せたことが無かった。
交神を経験した神々が言うに、このくらいにまで成長しているのなら、とっくに言葉を発していてもおかしくはないらしいのだが。
『…おい、テメェ喋れんだろ?なんか喋れ』
最初の内は気にならなかったが、こうも無口だとやはり何か引っ掛かる。
寝転がっている凶太に背を向けるかたちで座り込んでいる童子は、何やら手頃な遊び道具でも見付けたのか、先程から黙々と手遊びをしているようだ。
当然、返事は返ってこない。
『…………』
なんだか無視されたような気がした凶太は、ムッと顔をしかめると、立ち上がって童子の近くへ歩み寄った。
『くぉら!シカトこいてんじゃねぇぞクソガキ!黙ってねぇで、ウンとかスンとか言いやがれ…』
怒鳴っている途中だったが、ビタリと凶太は硬直する。
先程から童子が遊び道具として扱っていたモノ。
それは、常ならば凶太の腰に下がっている筈の、神剣であった。
『…ってうおぉぉぉいぃ!!?』
それこそ神速で、童子の手にしている剣を奪い取り、無意識ではあるが、童子に怪我などないか一応見てみる。
何処も切っていないのを視認した途端、驚きのあまり縮みあがっていた心の臓が、今度はバクバクと早鐘を打ち始めた。
一体いつの間に童子が剣を手にしたのかと疑問も湧いたが、それはすぐに解決した。
(そ、そういや酒盛りから帰ってきた後、そのまま暫く爆睡してたっけか…)
恐らくその隙に、童子は父神の腰にあった剣を手にしたのだろう。
ちなみに凶太が酒盛りに出かけている間、童子は宮へ置き去りにされていた。
鞘から刀身が抜き去られていなかったから大事に至らなかったのだが…
『っクソガキ!!!なぁにとんでもねぇコトやらかしてんだテメェ!!!』
バッと襟首を掴み上げ、冷や汗を浮かべつつ、至近距離で怒鳴り散らした。
が、相変わらず童子は少し半眼な無表情のまま。
そんな様子に段々腹が立ってきた、その時だった。
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