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「ギャーギャーギャーギャーうるせんだよデコっぱちが」
………幼児の口から、とんでもない言葉が飛び出してきた。
唖然とする凶太は、予想だにしなかった言葉に射られ、思わず掴んでいた襟首を手放す。
ドサリと尻餅をつくように落下した童子は、痛みに眉をしかめながら、未だに固まっている凶太をジロリと見上げた。
「…ってぇな。何落としてんだボケ」
しかし、脳内が真っ白になって石化している火の神は、同じポーズをとったまま、微動だにしないのだった。
童子はといえば、半眼になりつつ、やれやれといった調子で軽く息を吐いている。
やがて石像を見上げるのにも飽きたのか、すたすた歩きだし、宮の外へと出掛けて行ってしまった。
沈黙の宮の中。
一柱残された凶太の思考は、ゆっくりと活動を再開し始める。
(……………何だアレ…)
一体、さっきのは何なんだ…
同じような疑問ともつかない台詞が、頭の中をグルグルと回っている。
アイツは今まで酷く無口だったから(…というか、声さえ聞いたことがあるかどうかも怪しい)、話したがらない性格か、最悪口がきけないものと、勝手にだが思っていた。
アイツは今まで酷く無表情だったから、面に出せる程の感情が備わっていないものと、勝手にだか思っていた。
…しかし、どうも、ほぼ的を外れていたらしい…
(…………アイツは…)
ワナワナと、襟首を掴んだ形のままの手が震えだす。
(アイツは…そんなヤワなガキじゃねぇ…)
瞬間、震えていた手を握り拳に変えると、天界中に轟かんばかりの怒声を爆発させたのだった。
『アイツはとんでもねぇクソガキだーーーっっ!!!』
一方その頃、件の童子は。
父神のそんな雄叫びが聞こえたか、大きな池に掛かった朱色の橋の真ん中で、煩わしそうに片眉を上げた。
しかしすぐに表情を元に戻すと、橋の下に広がる池を覗き込む。手摺りにはまだ背が届かないので、それを支える細い柱の隙間から。
蓮を浮かべた静かな水面。微かだが、魚影も見える。
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