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そうやって暫く池を眺めていたら、不意に頭上から声が掛かった。
『あら、あなたは………今度、三ツ星殿のところに生まれた子ですね?』
声がした方を振り向くと、其処には白い神衣を纏った女神の姿が在った。薄雲のような、柔らかそうな絹布が、風もないのに僅かに揺れている。
すぐ真後ろに立つ女神の顔、表情は、逆光のせいで見て取るのが難しい。
「……………」
別段何も答えることなく、童子は再び池に顔を向けた。
女神…昼子も、童子のそんな無愛想な態度を咎めるでもなく、ただ微笑しながら小さな背中に問い掛ける。
『何か、見えますか?』
そう問われても、やはり童子は黙っていた。が、少しして、
「みず」
短く、そう返した。
池なのだから、見えるものといえば水というのは当たり前である。
子供らしさのカケラもない、ぶっきらぼうな答えだが、昼子は少し笑った。
『フフ、そうね、池だものね』
依然として池に目線を落としたままの童子の頭に、フワリ、と、柔らかな感触が降ってきた。
何だと見上げれば、女神が自分の頭に片手を乗せているのが分かった。
訝し気に、思いっきり眉根を寄せると、女神がまた笑った。
『貴方はきっと、地上で大事を成しますよ』
「…?」
意味が解らないと言いた気に、睨むように目を細める童子。
対して、昼子は変わらぬ微笑みのまま。
そっと手を離すと、一度だけニコリと笑みを深めて、何も言わずに橋を渡り去って行ってしまった。
『………………』
暫く女神の去って行った方を見ていた童子だったが、瞬き一つしてから、また池に向き直ろうとした。
…が、
『ぅおい!!コラ!!クソガキッ!!!』
聞いたことのある怒声と共に、突然の衝撃が脳天を襲った。
「いっ!!?」
ガツン!という小気味よい衝撃音が頭に響き、間髪入れずに盛大な痛みが、頭を中心として体中を突き抜ける。
あまりに唐突な出来事に、ただ痛む頭を抱えて呻いていた童子だが、暫くして振り向いてみると、其処には右の拳を押さえて痛そうに唸っている父神の姿があった。
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