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そこで漸く、自分が父神に殴られたというのが理解出来た。しかし、痛いのはこっちの方だというのに、何故にあちらまで痛がっているのか。
疑問は、すぐさま解消した。
『…おま…なんつぅ石頭してやがんだ…』
そう忌ま忌まし気に呻く凶太の目尻には、涙さえ薄らと浮かんでいる。
ゲンコツをくらった童子とて、それは同じなのだが。
『ったく、いなくなったと思えば、こんなトコにいやがったのか。勝手にうろちょろしてんじゃねぇ』
そう言って、やっと痛みの引いてきた手で童子の襟首を引っ掴もうとした、瞬間、物凄い力で、まだ赤くなっている凶太の拳の皮膚を、童子が抓り上げてきたではないか。
『いででででででっっ!!?』
堪らず、掴もうとしていた手を引っ込める。
痛みと同時に熱を持ってしまった拳に、フーフーと息を吹き掛けながら見開いた目で童子を見遣ると、いかにも不機嫌といった様子で、嘲るように『フンッ』と鼻を鳴らすところであった。
『こ、んのっ……!』
ヒクリ、と片頬を怒りに引き攣らせる凶太の頭に血が上りかけたところで、僅かに残っていた理性がそれに歯止めをかける。
相手はまだ子供だ、どんなに可愛気なくても生意気でも、一応血を分けた 自分の子供なんだ。ここは大目に見てやろうじゃないか、自分。落ち着け、そうだ、落ち着け…
脳内でそうやって自己暗示をかけ続け、ようやっと怒りも治まりかけてきた頃、おもむろに童子が立ち上がり、もと来た道をスタスタと戻り始めた。
『あ、おい…!』
童子の行動の切り替えに僅かに遅れを取った凶太は、少し慌ててその横に並ぶ。
『……帰るのか?』
問うが、前を向いたままの我が子からは当然の如く返答はない。
期待はあまりしていなかったものの、無視されるとやはり腹が立つ。
ムッと顔をしかめたが、なんだかもう諦めがついてきて、嘆息一つでしかめっ面を半眼の呆れ顔に変えた。
『…ホント可愛くねぇ』
ほれみろ、ガキなんざ全然可愛くもねぇじゃねぇか。こんなもんの一体ドコに、親になった他の神々(れんちゅう)は、感情移入出来るほど入れ込んでいるのか。
というか、まあ、自分の場合、元々『親』なんてものは向いてない。
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