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そんなことを頭の中でブツブツ呟いていると、前方から良く見知った男神が歩いてきた。
『あれ、凶太。宮にいないと思ったら、仲良く父子でお散歩かい?』
実に意外だ、といった風に、男神…鳳 あすかは声を掛けてきた。
が、そんな台詞はあっけなく瞬殺されてしまう。
『あ゛ぁ?』
「あ?」
不服そうな睨みと共に放たれたそれは、否定をありありと滲ませる声。
だが、一瞬の後、その声が見事に重なった事に気付き、父子はお互いに顔を見合わせた。
凶太は勿論、さしもの童子も驚きに目を見張っている。
そんな父子の様子を交互に見てから、あすかはへらりと笑った。
『あはは、やっぱり父子だけあって反応がそっくりだねぇ』
次の瞬間、あすかの端整な顔には凶太の拳が、左脚の脛(スネ)には童子の蹴りが、神速でめり込んだ…
後に、風神・鳳 あすかは、こう語ったそうな。
『天界に子連れの鬼が出た…』
と………
***********
それからというもの。
天ノ橋立には、毎日のように凶太父子がやって来るようになった。
最初は童子だけだったのだが、暇も手伝ってか、はたまた無意識下で童子の心配をしてか、凶太まで一緒にやってくるようになったのだ。
最初こそ、童子はついて来る父神を嫌そうな目で睨んでいたが、今となっては諦めも付いて…というか、無視し続けているので、どうやら気にならなくなったらしい。
いつものように細い柱の隙間から、池を見詰める。
『………なあ。毎日飽きもしねぇで、一体何見てやがんだ?』
「池」
『…………』
同じ問答を、いつもこの橋の上で繰り返している。
返答がくるようになっただけまだマシかと、凶太は溜め息した。
だが、いつもならここで会話は終了してしまうのだが、今日は違った。
「凶太」
………………………。
(あれ、なんか今俺、呼ばれたか?…いや、まさかな。そんなワケ、)
「テメェ、聞こえねぇのか、このデコッパチ」
『誰がデコッパチだぁぁ!!?』
条件反射的にそう怒鳴ったところで、凶太の動きがハタと止まった。
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