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だが、いくら見詰めたところで、人である童子に地上の様子を伺う事など出来よう筈もない。
それでも、まだ見ぬ母を一目でも見たいが為に、ここへ足を運んでいたのだ。
まずかったか、と、今更ながら凶太は伐の悪そうに頬を人差し指で数回掻いた。
しかし、どちらにせよ地上に降りれば分かる事。
期待したまま地上で事実を知ってしまうより、先に言っておいた方がいい事も、ある………と、思う。
もう一度童子に視線を向けてみる。
先程のような動揺の混ざった顔はしていないものの、やはり心中複雑、といった様子だ。
軽く息を吐くと、凶太は唐突に童子の頭に軽く手を乗せ、そのままポンポンと数回柔らかく叩いた。
何だ、と言わんばかりに、童子が眉を寄せて見上げてくる。
『…あー…その、なんだ。まあ、母親はいねぇけど、よ』
躊躇い、口の中でもごもご言い淀みながらも、咳ばらい一つして、凶太は我が子を今度は真っ直ぐ見ながら言った。
『………お、おめぇには、俺、が………いるからよ…』
言い終えた途端、照れ臭さで凶太は頬を赤くしながら、我が子から視線を逸らした。
大きな掌は、子の頭に乗せたまま。
しかし反応が返ってこないので、そろそろと目を泳がせながら再び童子を見てみると。
未だかつて向けられた事のない、物凄いうざったらしそうな表情でこちらを見ていた…………
***********
それから幾らもせぬ内に、とうとう童子が地上へ降りる日がやってきた。
迎えに来たイツ花の顔をみた途端、童子は眉をしかめた。
以前、橋の上で話し掛けてきた女神に、この人間の少女が、どことなく似ていたからである。
そんな童子の視線にも気付かずに、イツ花は行儀良く凶太に挨拶をしている。
「それでは、三ツ星様。御子様を一族の皆様の元へ、お連れ致します」
『あー、とっとと連れてけ。これでやっと清々すらぁ』
肩の荷にが降りた、と、言わんばかりに、凶太はコキコキと首を左右に鳴らした。
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