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『…っと、いけね。アレ渡しとかねぇとな』
何か思い出したように、凶太は懐から、不思議な色の玉を取り出した。
それを、童子の眼前に突き出す。
『ほらよ、土産だ』
「……?」
訝し気に首を傾げ、童子は不信感に満ちた目をこちらに向けてくる。
凶太は嘆息すると、有無を言わさず我が子にその玉を片手に握らせた。
『これは七光の御玉っつって、誰でも地上に降りる時に持たされてるモンなんだ。これは一度だけ、親神…つまり、お前が使うと俺を、喚ぶ事が出来る』
説明を聞きながら、まじまじと玉を見詰めていた童子だったが。
あろうことか、次の瞬間、目にも留まらぬ早さで玉を無造作に投げ捨てた。
その表情は、何か汚いモノでも触ってしまったかのような、嫌悪感丸出しのものだった…
『って、おぃぃぃ!!!なんてことしやがんだ、こンのクソガキ!!!』
「使ったらテメェが出てくるんだろ?いらねぇそんなモン」
『んなっ!!?とこっとん可愛くねぇな、お前はよ!!!』
ギャアギャア怒鳴り合う父子。
その様子を見て、イツ花はただ苦笑するしかなかった……
***********
地上へと降りる道を、イツ花に連れられて歩く。
その道中、イツ花は何か躊躇するようにして、童子に語りかけた。
「……あの、若様」
返事の代わりに、童子はイツ花を見上げる。
イツ花は目を伏せながら、暫くしてゆっくりと口を開いた。
「…母君の、事…なんですが…」
しかし、言うに迷っているイツ花を余所に、なんでもないといった風に、童子は遮るようにして言った。
「知ってる。死んだんだろ」
「……!」
イツ花は驚いているようだが、そんな事は気にせずに、淡々と言葉を紡ぐ。
「心配なんざ余計な事すんなよ。下手な気ィ遣ってもらっても、有り難くもなんともねんだよ」
それに、と、先程強引に手渡された玉を、取り出して眺めた。
「……俺には、凶太がいる」
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