誰が為の

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      儚き灯火       一つ、消え       怨みの業火       一つ、増え       此の数珠繋ぎの       終いや見えず           ***********         今日、また、一つの命が静かに散った。     白装束の故人を囲い、ある者は泣き崩れ、ある者は渋面で拳を握り、また、ある者は冥福を祈りて合掌した。         その光景を見守る者在り。   水神・魂寄せ お蛍と、死して尚この世に止まり続ける花房 斎蔵である。   命を終えた肉体から出でた魂は、お蛍の手の内へ誘われ、淡い燐光を放っている。 部屋の最奥に座している斎蔵は、その様子を見詰めていた。   お蛍は斎蔵の方へ向き直ると、静かに会釈する。 それを受け、斎蔵もまた頭を下げる。 己の愛した子孫の御霊を、くれぐれもお頼み申す…と。     誰かが死する度、その魂を迎えに来るお蛍とそれを見送る斎蔵が、決まって交わす無言の挨拶。     そうして、お蛍は再び天へと還ってゆくのだった。         ***********         天へ帰還したお蛍がまず最初に行う事。   それは、持ち帰った魂を次の輪廻転生の為に『生命の環』の中へ戻してやる事だ。 生命が再び来世へ転生する事は容易ではないし、時間を要する。   『だから今はゆっくりと…お休みなさい』   そう囁いて、そっと捧げ持っていた魂を環の中へ還す。   循環する生命の流れに乗って、やがてその流れと溶け合っていく魂を見守っていると、何処からか一柱の神がお蛍の元へ歩み寄って来た。   それが誰であるか、確認せずともお蛍にはすぐに察知することが出来た。 いや、お蛍でなくとも、恐らく誰にでも判るだろう。   この、身を焦がすような眩い陽光を放つ、強烈な神気……   『…昼子様』   振り向けば、予想通りの女神の姿が其処に在った。   現在の天界の最高位神・太照天 昼子。かの女神は、生命の環の流れを、先程のお蛍と同じく静かに見据えている。
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