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お蛍が畏まりながらその様子を伺っていると、その内に昼子から先に口を開いた。
『今日亡くなったのは、花房の三代目の当主だったんですね…』
お蛍も流れに視線を戻し、ゆっくりと頷いた。
『はい…。良き当主だったと、斎蔵様より聞き及んでおります。…笑って、おいででしたが…』
勿論、斎蔵が無理に笑っていた事くらい、お蛍も解っていたが。
『そう…』
それだけ呟くと、昼子は沈黙した。
暫しの後、今度はお蛍から話を切り出す。
『…一つ、お尋ねしても…宜しいですか?』
『ええ。何かしら?』
一拍置いてから、お蛍は自分の思う疑問を昼子に投げ掛ける。
『何故、斎蔵様が現世に止まる事をお許しになられたのですか?』
一方、問われた側の昼子は、軽い調子で答えた。
『何故って、あの人がそれを望んだからですよ』
この女神がまともに答えてくれるなどとは、お蛍とて思ってはいなかった。
それが故、全く腑に落ちないといった表情で、更に問い掛ける。
『恐れながら、昼子様。それだけの理由で、貴女様が死者である斎蔵様を放っておいているとは思えません』
『そう?朱点を討つ為とはいえ、此度の計画は私たち神の勝手で進めているようなものですもの。あのくらいの我儘なら、聞いてあげても良いでしょう?』
昼子の表情は崩れない。
きっと、何を訊いても、真意など明かしてはくれまい。まして、自分は最下位神と言っても過言ではない立場なのだ。訊き出そうと思う事自体が、浅はかなのかも知れない。
だが、これだけは。
この危惧だけは、口にせずにはおれなかった。
『……私たち神や、自我を持たぬ鬼ならば、永遠の刻にも耐えられましょう。…もはや、時間という概念の無い存在なのですから』
ゆっくりと紡がれていくお蛍の言の葉を、昼子は黙って聞いている。
いつの間にか、笑みは消えていた。
『ですが、斎蔵様は人間。いくら神の血が混ざっているとはいえ、所詮はただの人間に過ぎません。確かに、斎蔵様は…彼らは強い。しかし…』
『しかし、同時に弱く儚い。…人間であるが故に』
言わんとしていた事を先に言われて、お蛍の疑問はますます膨らんだ。
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