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『それを解っていらっしゃるのに、どうして…』
『大丈夫ですよ、お蛍。貴女の恐れている事態には、決してなりませんから』
そう言うと同時に、昼子の顔に再び笑みが戻る。
『神と人の刻の流れは、違うんです。私はね、この戦いは案外早く決着がつくと思ってるんです。…100年も掛からないでしょう。もしかすると、もっと早いかも知れない』
昼子の言わんとしている事が些か理解出来ず、お蛍は浅く眉根を寄せた。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、昼子は最初と同じように軽い口調で続ける。
『安心なさい。斎蔵は鬼になったりしませんから。その前に戦いは終わってしまうでしょうし、何よりあの人は鬼になるようなヤワな人間じゃないです』
憂えていた事をアッサリ否定されたお蛍。
僅かに目を丸くしていたが、彼女の内にはもう一つ心配事が在った。
再度表情が曇る。
『…朱点童子は、恐らく斎蔵様の霊魂が現世に止まっている事に気付いている筈。あの者の手に、落ちないとも限りません』
が、それすらも昼子は笑い飛ばしてみせた。
『やだな、それを防ぐ為に斎蔵の存在出来る場所を限定したんじゃない。それに、イツ花を通じて結界も張ってあります。朱点があの屋敷に侵入する事は、まず不可能と言っていいでしょう』
ニッコリと笑ってみせる昼子を、お蛍は未だに心配顔で見詰めていたのだが、やがて納得したのか、薄く笑みを浮かべたのだった。
『…昼子様がそう仰るのならば、私などの心配は無用なのですね。つまらない杞憂でした。お許し下さい』
『いいえ、そんな事はないです。それだけ、貴女はあの一族の事を気に掛けてくれているという事ですもの。それを知る事が出来て、嬉しかった』
貴女が地上の人間に対して無関心な神でなくて良かった。
そう言う昼子に、薄らと照れたように頬を染め、お蛍は深く一礼すると、自らの宮へ戻るべく、その場を去って行った。
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