凶ツ神ノ掌

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人が生を営み、その生を蹂躙する鬼が住う地上より、空の彼方に分かたれた世界。 神々が御座す天ツ原。 その天ツ原の一画で、素頓狂な声を上げる男神が在った。 『はぁ!?テメェ、今何つった!?』 声の主は、火神・三ツ星 凶太。豪快かつ激しい気性で知られる彼の神は、その双眸と額の第三の眼を見開き、驚愕の表情で目の前の少女に聞き返した。 「ですからぁ、来月の交神の儀に、是非とも三ツ星様をと望まれる方がいらっしゃいまして。こうして、その旨をお伝えしに参上したんですよ」 怒号とも取れる凶太の大声をものともせずに、少女・イツ花は人差し指を立てて、もう一度告げる。 再び同じ台詞を言われたところで、今度こそ火神は氷のように固まった。 一拍置いて、振り切るようにそっぽを向く。 『んな七面倒なコトやってられっか!!他当たれ、他!!』 「昼子様に言い付けますよ?」 『うっ…』 昼子、という名によって、拒絶の意思が激しく揺らぐ。 交神の儀を拒絶する事。それは即ち、昼子に背く事となるのだから。 以前、昼子によって粛正された神々がどうなったか、流石の凶太も忘れてはいなかった。 『………ちっ、わあったよ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ!』 不服さを満面に表しながら、舌打ち一つ、凶太は渋々了承したのであった。 *********** 天と地の狭間の、何も無い空間。 其処で、交神の儀は行われる。 神と人との間に子をもうけるなぞ、酔狂な事を始めたものだと思ってはいたが、実際に自分を指名されるとは夢にも思わなかった。 『大体、なんで俺だ?もっとこう、縁起の良さげな野郎のがいいもんじゃねぇのか?普通』 一足早くこの場に降臨した凶太は、ガシガシと無造作に頭を掻きながら、眉根を寄せた。 『しかも俺の相手はタタラの娘ってか?』 実は此処へ来る前、自分の娘が交神すると知ったタタラ 陣内が、大騒ぎしながら凶太の宮へ乱入してきたのだった。 くれぐれも丁重に扱えと、散々注意された挙句、帰り際には『なんでよりによってこんな荒くれ者と…』と、溜め息混じりに呟いていた。
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