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『けっ!あの野郎、俺より下位のクセしやがって。…しっかし、ガキなんぞの何がそんなにいいんだかな』
元来、神に子供など必要無い。
その必要の無いモノに何故それ程執着出来るのか?
凶太には、全くもって理解が出来ない。
ついでに言うと、発案者である昼子の腹の内も全く読めない。
まあ、政や謀に関心の無い凶太にとっては、昼子の策略などどうでも良いのだが。
そうやって待ち惚けていると、不意に淡い光がゆるゆると立ち上ぼり、次第に人の形を成していった。
暫くの後に光は定着し、此度の交神の儀の相手である、花房 美紅(ハナブサ ミク)が姿を現した。
色素の薄い亜麻色の髪をサラリと揺らしながら、美紅は降臨している男神に深く一礼する。
『…お待たせ致しまして申し訳有りません。花房 美紅と申します。お相手、宜しくお願い致します』
『………』
凶太は何も答えずに、眉間に深く皺を寄せて、ジッと美紅を見据えていた。
何も返事が無いので、美紅は下げていた顔を上げる。
『…三ツ星様…?』
凶太は嘆息する。
『…は、俺も大概安く見られたもんだな。こんな、死にかけの女なんぞ寄越しやがってよぉ』
『…何を…』
『とぼけんな。テメェ、今この場に立ってんのもやっとだろうが?』
言われて、美紅は押し黙った。
凶太の言は真実だったからだ。
晩年になって、ようやく交神の儀を受け入れた美紅。
よりによって、儀を執り行う月に入った途端、体調が急に悪化したのだ。
この空間への到着が遅れたのも、それによるものだった。弱った身体から精神体を剥離させるのは、容易な事では無いので多少の覚悟は必要だと、巫女の装束を纏ったイツ花が、いつになく真剣な面持ちで言っていた。
凶太の言う通り、意識をしっかりと保っていなければ、立つことすらままならない状態なのである。
『…万全ではない状態でお相手願うことの非礼、お許し下さい。…でも私には…私たちには、新しい命が必要なんです』
真っ直ぐに凶太を見る碧い瞳には、驚く程強い意志が宿っていた。
こんな瞳をした人間など、凶太はついぞ見た事が無かった。
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