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『…いいぜ、そんなに欲しいならくれてやらぁ。』
不敵な笑みを浮かべつつ、美紅の目線と己の目線とを合わせるように、僅かに屈む。
『だがこれだけ言っとくぜ。この儀の後、テメェは無事じゃ済まねぇぞ』
それでも、引き換えにしてでも子供を望むか?
その問い掛けに、美紅は穏やかに笑んだ。
『もとよりそのつもりです』
『…なら問題無ぇな。よっしゃ、全開バリバリでぶっとばすぜ!』
刹那、神と人の間に閃光が走り、その光は虚無の空間を一息に支配した―――。
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神の予言の通り。
空間から戻った直後、美紅は死の淵へ沈み、二度と還ることはなかった。
皆は嘆き哀しんだが、召される寸前に、美紅はポツリと辞世の句を遺した。
「…………私の身体の中にも鬼がいるの。そしてそいつは…日に日に大きくなったわ…。……よかった…もう少しで、私、そいつに食われそう、だった…………―――」
彼の岸へと旅立った美紅の死顔は、それは穏やかな、安堵に充ち満ちた表情を湛えていたという―――。
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天ツ原へと戻った凶太の掌の上には、一つの小さな光の玉が浮かんでいた。
軽く握っただけでも砕けてしまいそうな、儚い光。
生を得て間もない、真新しい魂。
『…こんなんがホントに、あの朱点童子に勝てるってのかぁ?』
説得力のカケラも無ぇな、と、呟いた瞬間だった。
突如として、魂は赤子の形を成し、重みを伴い凶太の掌に落ちてきたのだ。
『ど、わっ!!?』
あまりに唐突だったものだから、危うくそのまま落としてしまうところだった。
『ったく!ヒヤヒヤさせてんじゃねぇぞ!!』
思わずそう怒鳴ったところで、しまった、と、息を呑む。
自分の僅かな知識によれば、確か赤子というのは泣き出したが最後、中々泣きやまない筈だ。
大声を出そうものなら、驚いて泣き出すに決まっている。
そう思っていたが、暫く経っても手の内の赤子が泣き出す様子は無かった。
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