フェイズ・1

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LTとはロリータ・ティンクルのイニシャルから来るニックネームだ。 「答えになってない」 「いいじゃない、LTがいた方が盛り上がるんだし、私達としては、辞めてくれてよかったよ!」文句を言うシャロン・Cにドミニク・ジョセフィン・クラウザーが気が利くという表現からは程遠いフォローをする。 「それってフクザツ」ロリータは溜め息をついた。 「はいはい、昼のレッスンは終わり」ギャラントが笑いながらエミッタとプレイヤーを両手に持つと、少女達はギャラントに礼と挨拶をして騒ぎながら更衣室へ走り出す。「午後の講義に遅れないようにね!」ギャラントは大声でそう言って体育館を後にした。 クラスが同じであるロリータと子子が午後の授業が行われる歴史の講義室に入ると既にクラスメートの大半は講義室におり、数人の男子が固まって限定戦争の話で盛り上がっていた。 電脳暦(VC)a6年5月。 かつて世界と呼ばれた地上を支配していた主権国家は、ハイパー・コンテンツ・プロバイダと呼ばれる多国籍サービス企業群の前にその活動の意義を失い統治機能を放棄、人類の生活圏では土地に依存する主権国家に代わり、資本に依存する企業国家群が台頭するようになっていた。  ユーザーやスタッフのネットによる接続で日々勢力図が変わる実態を持たない企業国家群によって社会の経済、流通は異常なまでに活性化、それは思想や理念、イデオロギーまでもを流通の対象とした。  戦争は時代にあわせその姿を変え、企業国家や自治プラント間での衝突は資本や情報を撹乱及び破壊するインフォメーション・ウォー(情報戦争)や、周囲に被害の及ばない『レンタリア』と呼ばれる賃貸戦場でコーポレート・アーミー(企業国家が所有する軍隊)や限定戦争代行企業が殺し合う『限定戦争』で争われた。  やがてレンタリアの斡旋や兵器のリース、限定戦争の仲介等を行う『国際戦争公司』等の限定戦争コンサルタント企業が台頭し、限定戦争の戦闘の様子を有料のエンターテイメント・コンテンツとして配給する事が定着、世界的娯楽に成長したそれは、地球圏全体の経済に非常に大きな影響を及ぼすようになる。  経済が命とイデオロギーまでもを食い物にする超資本主義は人類の創造性と倫理感を風化させ、やがて人類の歴史は宗教を紀元として十進数で刻まれていた西暦から経済を紀元として十六進数で刻まれる電脳暦へと更新された。
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