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走りに走った俺は、屋上に着いた。
ボーッとしていると、後ろから声が掛けられた。
「柚杞…?ンな顔して…どうした?」
「か、克毅ぃ…っ」
「おわっ!」
ギュッと、克毅に抱きつく。因みに克毅こと、長洲 克毅(ながす かつき)は昔からの幼なじみ。柚杞と雅寿の関係を知ってる、唯一の人物だ。
「で、今日はどうした?」
「うううっ。先生が…っ!」
先程起こった事を全て話した。他人からすると、惚気にも聞こえそうなすごく些細な事件を。…いや、柚杞本人は大事件だと思っているようだけど。
「…で?渋谷先生が名前で呼んでくれないのが悲しいのか、それとも覗き込まれて顔が近くにあった事が嬉しいのか、どっちなんだよ…」
「う~ん…。どっちも?」
克毅は腕を振り上げ、バコッという勢いのいい音をたてながら柚杞の後頭部目掛けてその腕を振り下ろした。
「い…っ!!」
(…痛ーっ!!!!!!)
本当に、痛かった。それはもう叫び声すら出なくなる程に。
柚杞は涙目になりながら、克毅を(俺の身長が克毅より小さいため)上目使いで見る
「…ッ…!」
「克毅?顔、赤いよ。熱でもあるのか?」
「な、何でもねーよ!」
「ならいいけど…。」
「そ、それよりさ…。今日、先生ん家に泊まるんだろ?」
「う、うん…。うへへ」
先生と約束をした日を思い出す。
(やば…っ。今絶対、頬緩んでる)
「寮監に外泊届けだしとくからなー。」
「マジ?ありがと、克毅!じゃ、俺、そろそろ行くな!!」
「おお。じゃあな!」
「うんっ」
「好き、なんだけどなぁ……。渋谷の事ばっかり気に掛けてないで、少しは俺の気持ちに気付けよバーカ…。」
走り出した柚杞を見つめてボソリと呟いた声は、相手に届く事はなく、風に流されていった。
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