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経緯を見届けたのは、俺では無い。
何故なら俺はまだこの世に生まれて居なかったのだ。
この話を俺に繰り返し教えたのは、俺のお袋だ。
お袋はある老夫婦に世話になって居た。
二人はお袋をとても可愛がり、まるで子どもの様に大事にしてくれた。
二人には子どもはなかったから余計に可愛かったのだろう。
或る日、婆様……お袋は親しみを込めて、女主人をこう呼んだ。
勿論俺達の言葉は人間には通じないが、今思えばお袋も二人を二親の様に思っていたのかもしれない……が川に洗濯に出掛けた。
お袋もその後をついて歩いた。
俺達犬族にとって散歩は呼吸そのものだし鼻先に蝶がヒラヒラしてるのを見ながら、うたた寝したりするのは楽しいからな。
とにかく婆様と一匹は川へ向かい、お互いのすべき事に取り掛かった。
婆様は洗濯、お袋は昼寝。
しかし昼寝も長くは続かなかった。
婆様が声を上げたのだ。
お袋が顔を上げると、婆様が桃を持っていたんだ。
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