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「お前、見てご覧よ」
婆様はお袋に話し掛けた。
「川上に桃の木でもあるのかねぇ。」
婆様は手にした桃をしげしげと見つめた。
今の世の様に、甘い物がそうそう手に入る訳でもねぇ時代の話さ。
やんごとなき御身分の方々だってなかなか口に出来るもんじゃねぇし、まして下々の人間になら果物が一番の贅沢品だわな。
だから婆様は喜んだのよ。
そして爺様と二人で馳走になろうってな。
そんな婆様の喜ぶ姿を俺のお袋は尾っぽを振って見てたって訳だ。
御主人が喜べば、犬も喜ぶ。
そんなもんだろ。
その晩、山から帰って来た爺様に婆様は川での出来事を話して聞かせた。
年寄り二人の生活だ、どんなに小さな幸せでもあった方がまし、いや二人で分け合って居たんだろうな、さてこれは有難や…とひとつの桃を仲良く食べたのさ。
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