2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 空を飛んでいて、私は色々な物を見た。  照り付ける太陽の下で駆け回る子供。それを見守る親。  それを見ながら、和やかに談笑する老人達。  彼等は、実に楽しそうであった。  私はそれを見て、何故だか羨ましいとも思った。理由は、分からなかった。  私は、もう少し近くで彼等を見たいと思い、近くの樹木に停まった。  停まってから、先程の様にりん、と啼いてみた。すると、網を持った子供と、その親らしき人間がやって来た。 「あ……見て、お父さん! 白いセミが居るよ!」 「お、本当だ……。見た事のない奴だなぁ」  どうやら、私の姿は珍しい様であった。  悪い気はしなかったので、私はそのまま啼いていた。 ―――しかし不意に、子供の持つ網が、私にさっと覆い被さった。  反射的に飛び立つ。が、網が邪魔をして、私は羽ばたけなかった。  私は、捕まった。  私は緑色の虫籠に入れられ、そのまま子供の家へと連れて来られた。  子供は家に入ると、虫籠の中の私を、少女に見せた。 「ただいまー。……ほら、見てみろよ。白いセミだぞー」 「わぁ、ほんとだ。しろいセミさん! ねえ、どんなふうになくの?」 「りん、って啼くんだ。鈴みたいで、変わった声なんだぞ」 「ほんと? きいてみたいなー」  少女は、私の声を聴きたがって居る様だ。  啼かない理由もないので、私は啼く事にした。    りん、りん、と鈴のような声が響く。  父親も、母親も、私の声を聴いている様であった。 「ほら! りん、りん、って啼いてるだろ?」 「うん! りん、りん、ってないてるね!」 「あら、綺麗な声ね……。風鈴みたい」 「ああ。俺も、最初に聴いた時はびっくりしたよ」  子供も、妹も、父親も、母親も、嬉しそうだった。  私は、すこぶる気分が良くなった。  暫く私が啼いていると、籠の中へと手が伸び、私の身体を優しく掴んだ。 「おとうさん……セミさん、ほんとににがしちゃうの?」 「ああ。セミは、自然の中でしか生きられないから、ちゃんと逃がしてあげないといけないんだよ」 「そうなんだ……それじゃまたね、セミさん」  父親は、私を空へと離してくれた。  私は、再び空を飛ぶ。  周りは、もう暗くなっていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!