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由貴は振り返って窓枠に腰掛ながら、なんのことかわからない、といった顔をすると竜はそんな由貴を睨んだ。
「都会育ちのお坊ちゃんってやつ……俺がいつどーしても行きたいなんて言ったよ」
「あー……あれね。いや、だってあの場はああ言うしかねえじゃん」
由貴は自分の言った言葉を思い出すと苦笑いした。
「あの場で、一人で貴方に会うのがいたたまれないのでマイフレンドについて来てもらいました、とは言えねえよ。悪かったって」
由貴の言葉に竜は不服そうな顔をした後、視線を下に向けて額を伝い落ちる汗を拭った。
二人の間に置かれている扇風機が180度に首を振って由貴の短い黒髪を揺らし、その後、遅れて竜のあちこち跳ねたブラウンの髪を揺らしている。
竜はのっそりと動いて、扇風機の前に座るとゆっくりと動いている首を止めて自分の方に集中させた。やや強めの風が竜の前髪をふわりと持ち上げる。
「ちょ、扇風機独り占めすんなよ!!」
「うるせえ、お前は罰としてそこで熱風にあたってろ」
「なんの罰だっつーの!!」
扇風機の前でしゃべっているため、風で声が変わってしまっている竜に由貴は反論して側に寄ると、扇風機を自分の方へと向けた。
「ずりー! 俺もやる! ワレワレハウチュウジ」
「くだらねえことすんなよ」
「ちょっとー! 途中で邪魔すんなよ! なんかモヤっとするだろ!」
まるで子供のような言い争いは、清治が由貴と竜に夕飯の支度ができたことを知らせるために部屋に来るまで続けられた。
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