22皿目 二人ぼっちのお留守番

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 7月29日。  空の真ん中に居座っていた太陽がいつの間にか位置をずらしていた。  それでも日差しの強さは変わらず、縁側で寛いでいる由貴と竜の肌にジリジリと照りつける。  時間はおやつの時間、15時。  由貴は食べ終えたアイスの棒を口に咥えて、右手に持った団扇を緩慢な動作で動かしながら、隣で扇風機を自分に向け、柱に凭れて目を瞑っている竜を恨めしげに見た。 「竜ー、もういいじゃん。俺にも扇風機の爽やかな風をプリーズ!」 「勝った方が好きなだけ独占できるっつったのお前だろ」 「そうだけどー!!」  竜は薄く目を開けて由貴を呆れたように見た。由貴はアイスの棒を左手で持つと、唇を尖らせて、ブツブツ呟きながら寝転がった。 「なんでクーラーねえんだよー! あー……クーラー様、どうして貴方はクーラーなのー。見てー、クーララーが立ったー……」 「黙れ」  過去の名作をクーラーに置き換えて唱え始めた由貴に、竜は心底鬱陶しそうな顔を浮かべると、伸ばしていた足で軽く由貴の背中を蹴った。  由貴は大げさに痛がりながら、ゴロンゴロンと狭い廊下で転がる。相手をするのが面倒になったのか、竜は横目で一人で騒いでいる由貴を見ると視線を外に向けた。  何重にも折り重なった蝉の声。短い命を精一杯生きるかのように全力で鳴く蝉。視界に映るのは青々とした自然。  竜はぼんやりと外を眺めていると横から向けられる視線に気付き、眉を顰めて由貴に視線を向けた。
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