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「なんだよ」
「べーつにいー」
由貴は竜から視線を外すと、寝返りをうってうつ伏せになった。
竜は由貴の不可解な行動に眉を顰めながらも、いつものことか、と納得すると目を瞑った。扇風機から送られる風が竜の髪を揺らす。
それから暫くの間、竜は扇風機から送られる人工的な風に目を瞑って黙り込み、由貴はうつ伏せの体勢から、身体を横にすると右腕を枕にして、ぼんやりと外を眺めていた。
由貴はゆっくりと身体を起すと、柱に凭れて目を瞑っている竜を見た。
「おーい、竜ー……寝てんの?」
「…………」
由貴の声に竜は反応を示さず、目を瞑ったままであった。胸辺りが息に合わせて動く。
由貴はしばらく竜の様子を観察していたが、一向に瞼を開ける気配はなかった。どうやら竜は寝入ってしまったらしい、と由貴は決め付けると、音を立てないように立ち上がり、その場を離れた。
由貴は玄関を降りて、壁に右手をつきながら、スニーカーを履いていた。壁についた右手にはガムテープが握られている。
右手で踵をスニーカーの中にきちんと納めると、屈んでいた身体を起した。由貴は視線を前に向けると、玄関の扉に手をかけた。
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