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「いってらっしゃい」
「おー、いってきま――……!!」
玄関の扉を開けようとした瞬間、後ろから聞こえてきた声に由貴は思わず返事をしてしまった。
清治と隆子は出かけており、今家には竜と由貴しかいなかったことに気付くと、由貴はしまった、といった顔をして俯いた。
沈黙がその場を支配したが、その空気に耐え切れず、由貴が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには腕を組んで由貴を見下ろしている竜がいた。
「りゅ、竜、寝てたんじゃねえの?」
びっくりしたじゃーん!と由貴は顔を引きつらせて笑いながら竜を見たが、竜は反応を見せず、目を細めて由貴を見下ろしていた。
由貴が気まずそうに竜から視線を逸らすと、竜は溜息をついて組んでいた腕を外した。
「どこ行くんだよ」
「え、いや、ちょっとそこまでお散歩に行こうかなーなんて、考えてまして。いや、別に竜を仲間はずれにしよう、とか、そういうのではなくてですね!」
可笑しな口調でしどろもどろになりながら話す由貴に竜はもう一度溜息をつくと、鋭い視線を由貴に向けた。
「どこ行くのかって聞いてんだよ」
「…………」
竜の言葉に由貴は黙り込むと、視線を下に向けた。竜は両手をポケットに入れると、由貴を見下ろした。
由貴は小さく息を吐くと、顔を上げて竜を見た。
「……昨日の森に行ってみようかなーっと思ってさ。なんかやっぱり卓也が事故だっての、納得いかねえっつーか……まあ、ぶっちゃけ言えば卓也がどーのっていうより、よそ者だって意見きかねえ奴らに対する対抗意識みてえな感じなんだけどなー」
事故じゃねえっていう証拠あったら俺の話聞くかもしんねえじゃん、と由貴は苦笑いを浮かべながら話した。よほど村長や省吾らに『よそ者』というだけで撥ねつけられたことが悔しかったのであろう。
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