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太陽の光が森の中に差し込む。
昨夜のことが嘘のように、明るく、鮮やかな緑に囲まれた森の中を由貴と竜は進む。
由貴は自分達の通った場所にある木の幹に、持っていたガムテープを千切って貼り付けていた。竜は由貴の不思議な行動に視線を向けた。
「何やってんだよ」
「え? ああ、これ付けていけばさ、どの道通ったかわかるだろ?」
俺ちょう頭良くね?と由貴は得意げに左手に持ったガムテープを持ち上げた。竜は由貴から視線を外すと、自分達が歩いてきた道に視線を向けた。丁度、竜や由貴の目線と同じ高さの所に、雑に千切られたガムテープが貼り付けられていた。確かにこうしてあれば、迷うことはない。
由貴はそうやってガムテープを千切っては貼り付けながら、竜の後について森の中へと進んでいく。竜は右手で額に滲んだ汗を拭うと、立ち止まって辺りを見渡した。
前も後ろも、右も左も同じような景色が続いている。
「昨日の場所、確かこの辺りだったよーな気がすんだけど」
由貴は右手で短い黒髪を掻き混ぜながら、視線を廻らせた。森に入ってから一時間ほど歩き続けているが、一向に卓也を見つけた場所に辿り着く気配はない。
太陽の日差しは木々に遮られ、暑さを和らげている。由貴は、木に手をついて、辺りを見渡している竜に視線を向けた。
「……なんで卓也、こんなとこに一人で居たんだろーな。いくら村の子どもだっつっても、態々帰り道に寄るとこではなくね?」
「一人では来たとは限らねえだろ」
「誰かと一緒だったってことかよ?」
「そう考えんのが自然じゃねえの」
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