23皿目 落とし物

3/3

4382人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
 竜は視線を由貴へと向けて、そう呟くと由貴は神妙な顔をして黙り込んだ。  蝉の声が二人の耳に届く。  竜は由貴から視線を外すと、また辺りを見渡しながら足を進めた。  好き勝手に成長した草や木の枝が、二人の進む道を遮る。由貴は屈んで、まっすぐ伸びた太い枝を避けながら口を開いた。 「あとさー俺、昨日卓也を見たとき、なーんか違和感があったんだよなー」 「違和感?」  竜が由貴を振り返ると、由貴は襟足に右手を置いて、上を見上げながら口を開いた。 「何がおかしいって、はっきりとは言えねえけど」 「…………」  由貴は襟足を掻きながら、眉を顰めて呟いた。竜は由貴から視線を外すと、ふと、右下に視線を落とした。その時、竜は何かを見つけて目を見開き、しゃがみこんだ。由貴はそんな竜の様子に気付かずに、話しを続けていた。 「なんか、こう、不自然――」 「由貴」 「へ?」  由貴がそこで初めて、竜がしゃがみこんで何かをしていることに気が付くと、竜の傍へと近づいた。竜は立ち上がって、手元に持っている何かに視線を向けたまま口を開くと、右上を見上げた。  竜と由貴が立っている場所の右側は、緩やかな傾斜になっていた。 「……この上が、昨日いた場所みてえだな」 「え? なんでわかんだよ?」 「これ見ろよ」  竜は口の端を吊り上げて、小さく笑いながら由貴を振り返った。竜の手の中には一本の懐中電灯があった。由貴は一瞬、竜が何を言いたいのかわからず、不思議そうな顔をしたが、すぐにその懐中電灯が意図するものに気が付くと目を見開いた。 「それって……」 「昨日、清治さんが落としたやつだ」
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4382人が本棚に入れています
本棚に追加