4384人が本棚に入れています
本棚に追加
「帰ろうぜ」
「……おい、由貴」
「んー? なんでございましょうー?」
足を踏み出して、その場を離れようとした由貴を竜が呼び止めた。由貴が振り返ると、竜は眉を顰めて、淡々と言葉を続けた。
「お前、ガムテープは?」
「え? ガムテープ?……あ……持って、ねえ」
竜の言葉に由貴は最初、呆然としていたが、すぐに気付いて目を見開くと、ゆっくりと両手を挙げた。その手には最初持っていたはずのガムテープが握られていなかった。竜は呆れたような表情を浮かべた後、由貴に鋭い視線を向けた。
「いつから持ってねえんだよ」
「い、いつからだろ?」
由貴は顔を引きつらせながら笑うと、竜はこめかみをピクリと動かした。明らかに竜を纏う不機嫌のオーラが、一気に濃度を濃くした。
「帰れるように道順にガムテープを貼るから、まかせとけっつったの、お前だよな」
「え、あ、はい。わたくしめでございます……」
竜の怒気を含んだ、冷めた声に由貴はガタガタと大げさに震え上がった。
由貴は、まずは卓也を発見した場所の周辺を徹底的に探そうと提案した竜の言葉を斥け、自分がガムテープで帰り道を確保するから、もっと森の奥まで探しに行こうと提案したのだ。
辺りは360度、同じ風景が広がっている。
「どうやって帰るつもりなんだよ」
竜の不機嫌さMAXな声が由貴の耳に届く。由貴は、恐る恐る顔を上げると、頬を引きつらせながら、にんまりと笑った。
「ゆ、由貴ちゃんわかんなーい。えへ?」
「……マジでぶっとばす……」
「タ、タンマ! 竜、早まるな! ほら、落ち着いて落ち……ギャアアーー!!」
最初のコメントを投稿しよう!