26皿目 実は口の中軽く火傷しました。

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 19:30。  太陽はすっかり姿を消し、空を闇が侵食し始めていた。  村の広場ではすでに、孤良津祭りが始まっていた。やぐらの上で太鼓が叩かれ、軽快な、どこか懐かしさを感じさせる音楽が鳴り響く。沢山のちょうちんに光が灯され、出店の明りと共に広場を彩っていた。浴衣を着た村の人々が楽しそうに笑顔を振りまきながら、祭りを楽しんでいる。まるで、昨日のことなど一切気にしていないように。  『孤良津祭り』と達筆な字で書かれた横断幕が吊るされた広場の門前。 「いってええ……んだよー、マジで蹴ることねえじゃん! 竜だって最初なんの考えもなく森に入ってただろ! 俺ばっか責めんのはおかしくね!?」 「うるせえ! お前があの時、奥に行くなんて言わなけりゃ迷うことなんてなかったんだよ!」 「仕方ないじゃん! あの時はまさか失くすなんて思ってなかったんだよ!」 「仕方なくねえ! つか、なんで失くすんだよ!」 「探すことに夢中になってたんだよ! ちょっとしたカワイイドジじゃん!」 「かわいくもなんともねえよ!」  由貴と竜は広場へと進みながら、声を張り上げて怒鳴りあう。  二人の服は所々、土で汚れていた。腕には擦り傷。竜の頬にはうっすらと一本の切り傷があった。  あれから森を出ようとした二人であったが、すっかり道に迷ってしまい、暗くなっていく森の中を彷徨い歩くはめになったのだ。途中、足を滑らせて二人同時に傾斜から落ちるなど、散々な目にあっていた。  持っていた懐中電灯の明りを頼りに、なんとか広場までたどり着いた由貴と竜は、その賑やかな明るい様子と、出店から漂ってくる空腹の胃をくすぐる匂いにつられるように広場の中へと足を進めた。
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