26皿目 実は口の中軽く火傷しました。

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 立ち並ぶ出店の前を歩きながら、由貴が首にかけたタオルの両端を手で握りしめて、にんまりと笑ってふざけると、竜は心底鬱陶しそうな顔をして由貴の頭を軽く、パシンと叩いた。そうして、じゃれあいながら広場を歩いていると、二人の傍に子供達が駆け寄ってきた。 「由貴兄ちゃんに竜兄ちゃん、来るのおそいよー!」  壱也、隆史、亜矢、紀美子の四人は浴衣を来て、すっかり祭り仕様の姿をしていた。それぞれ手にはヨーヨーやカキ氷、林檎飴にたこ焼きなどを持ち、存分に祭りを楽しんでいる様子が見て取れた。  由貴はしゃがみ込んで壱也と視線をあわせると、にんまりと笑いかけた。 「ごめんなー。つか、壱也いいもん持ってんじゃん」 「ガキにたかるな」  壱也の持っているたこ焼きを貰う気満々の由貴を竜は呆れたように見下ろすと、壱也は笑って、たこ焼きを爪楊枝に刺して、由貴の口の前に持っていった。 「一つだけだよー」 「もう、壱也大好き! サンキュー!」  由貴は嬉しそうに笑うと、大きく口を開けてたこ焼きを頬張った。由貴は口を動かしながら立ち上がると、ごくりと飲み込んだ。右手の親指で、口の端についたソースを拭って舐めると、前にいる子供達を見下ろした。 「今日は裕斗一緒じゃねえの?」 「裕斗くん? うん、今日はいっしょじゃないよ」 「そっか……」  由貴が残念そうな顔を浮かべていると、両手をポケットに入れたまま気だるそうに由貴の隣に立っていた竜が口を開いた。 「もう一人、いねえんじゃねえの?」 「もう一人? あーあの、誠太っつー生意気なガキも今日は一緒じゃねえの?」  由貴も竜の言葉に気が付くと、壱也達に尋ねた。壱也は由貴の言葉にきょろきょろと辺りを見渡すと、ほんとだ、と呟いた。他の三人も壱也と同じような反応を示した。
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