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21:00。
「うはー! 食った食った」
由貴は手を上に伸ばして、伸びをしながら満足そうにいうと、隣で歩いていた竜が呆れたような顔をした。
祭りの一日目が無事終了し、広場ではちょうちんの明りが消えていた。軽快な音楽も消え、また村に静寂が戻ってきていた。
虫の声と二人分の足音、そして、由貴の指にかかっている白ネコのキーホルダーについた鈴から奏でられる小さな音が、竜と由貴の耳に届いていた。
あの後、さらにヒートアップした奈緒のアタック攻撃を竜は鬱陶しそうに交わしつつ、由貴は竜がもらってきたサービスの品々を食の細い竜の代わりに嬉しそうにたいらげていた。
結局、祭りが終わるまで広場に残っていた二人は、森で拾った懐中電灯で道を照らしながら、疲れた身体を引きずるようにゆっくりと帰路についていた。
「疲れたー。普段の運動不足がここに来て謀反をおこしてるよー」
「意味わかんねえし」
「俺も自分で何言ってっかわかんねえ」
由貴がまるで酔っ払いのように愉快そうに笑うと、竜は呆れたような表情を浮かべて由貴を横目で見た。それから二人は暫くの間、いつものようにふざけあうわけでもなく、黙って足を進めていた。
チリン、チリン。由貴の指に引っかかったキーホルダーの鈴が揺れる。
離れた場所にある電信柱に付けられた外灯が、チカチカと点滅する。村は闇に包まれており、外灯の光や、持っている懐中電灯の明りのおかげで、かろうじてうっすらと周りの景色が見えていた。
虫の鳴き声がする。どこにいるのかはわからないが、確かに草むらの中で必死に鳴いていた。
ゆっくりと歩いていた由貴が突然、足を止めた。
隣を歩いていた竜は、由貴の少し前で立ち止まると、由貴を振り返った。
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